文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

レポートの採点基準

ふだんの提出物は添削するだけですが、最終課題は点数で評価しなければなりません。他の先生と共同の授業でなければ、私は最終課題1つを100点満点で採点することにしています。始めの頃や数回目の授業の提出物がうまく書けなくても、最後の試験期間に一定のレベルに達していれば合格というわけです。

そしてその期末のレポートの採点は、採点基準に基づいて行っています。次に一例を示します。資料を引用するのが条件の意見文の場合です。

【タイトル】10点

T 内容に合ったタイトルが付いているか。10点

【内容】10点

O 自分の意見をはっきり書いているか。10点

【段落】20点

P1 段落の初めは一字下げて新しい段落であることを示しているか。10点

P2 内容ごとに段落を分け、1つの段落に1つの内容を書いているか。10点

【トピックセンテンス】20点

TS 段落の始まりはトピックセンテンスを生かして書いているか。20点

【引用】30点

Q1 引用は何の引用かわかるように出典を書いているか。10点

Q2 引用文は「」でくくるなどして地の文と区別しているか。10点

Q3 引用は全体の文章の流れにおいて適切なものか。10点

【論理】

L 論の流れに矛盾はないか。10点

それぞれの加点項目には部分点も用意します。予想されうるパターンごとに妥当な部分点を割り振ります。

毎年いい問題を作ろうと腐心しますが、こちらの予想を遥かに上回る奇妙な答案が出てくるのは避けられません。こういった答案が採点基準のいたずらで高得点にならないよう、採点基準は常に手入れが必要です。

次に示すのは減点項目です。減点は1種につき-2点です。1つではなく1種で数えます。つまり同じ文字の誤字はいくつあっても減点されるのは1回ということです。

加点項目で得点できなかった要素を減点項目で更に減点しないよう注意しています。また、基本方針として、加点項目で低い点数にするのか減点項目で減点するのか迷う場合は減点項目を優先します。例えば、引用を示す「」の」がない場合、加点項目のQ2を落とす(-10点)のではなく、脱字と見なす(-2点)、などです。

誤字・脱字

敬体と常体の混用

俗語など不適切な言葉遣い。

ら抜き言葉など間違った文法の表現。
文に必要な5W1Hが抜けている。

ねじれた文になっている。
二通り以上に解釈できる文になっている。 

レポートの場合、通常の試験と比較して学生さんは評価に疑問を持つことが多いようです。学校の方針にもよりますが、採点基準は公開した方がいいと考えています。

第11回 意見文の練習

第9回の説明文に続いて意見文を書く練習をします。説明文の授業と同様に、書く材料を整理し、アウトラインを作り、その型に従って書きます。型、型、型……前半で基礎的なことを押さえた後は、ひたすら型を使って書く練習です。

90分の授業1回で意見文を1つ仕上げるのは無茶ではないかと思われるかもしれません。たしかに、学生さんの中には限られた時間ではなくゆっくり考えるのが得意なタイプもいます。短時間で結論を出すのにそぐわないテーマもありますーーいえ、そもそもこの世の中のほとんどの問題が短時間ではなく必要なだけ熟慮しなければならないものでしょう。

しかしここでは型を身に付けることを優先して、書く練習をします。与えられた提案について賛成か反対かを書きますが、自分が実際にどういう意見を持っているかと一致しなくてかまいません。まずは書きやすい方で書いてもらいます。できれば賛成・反対両方について書くとより効果的です。

90分授業で600字程度の意見文を書く場合、大学入試の小論文や中高生向きのディベートの論題が参考になります。

論題|ディベート甲子園|NADE - 全国教室ディベート連盟

 

さて今年は次のような問題を作りました。専門学校の試験問題としても使いましたが、45分の教室試験でほとんど全員が600字の意見文を完成させていましたので、90分授業の場合、説明やブレーンストーミングを入れるとちょうどいい内容だと思います(ただ私が授業をしているのは関西の学校なので、甲子園球場に野球観戦に訪れたりアルバイトをしたりした経験のある学生がいてやりやすかったかもしれません。)

夏の高校野球全国高等学校野球選手権記念大会)はナイトゲームで行うべきだ」という意見に対して、あなたの意見を書きなさい。

賛成か反対か自身の立場をはっきり書くこと(賛成・反対のどちらかが答えということではありません)。

学生が自分でアウトラインを作れないようでしたらこちらで用意します。

【アウトライン例A】

  1. 意見(賛成)
  2. 理由1:熱中症の危険性(選手)
  3. 理由2:熱中症の危険性(観客)
  4. 反論に反論
  5. まとめ

【アウトライン例B】

  1. 熱中症の危険性(現在の状況)
  2. 意見(反対)
  3. 理由:高校生にナイトゲームはよくない
  4. 熱中症対策
  5. まとめ

 

また、資料もいくつか用意するとよいでしょう。

例えば次のような新聞記事が使えます。

つなごう医療 中日メディカルサイト | 炎天下の高校野球 熱中症対策限界

これについてはTwitterでも話題になっていました。

Ceron.jp - つなごう医療 中日メディカルサイト | 炎天下の高校野球 熱中症対策限界

 

夏休みの読書感想文や社会見学の感想文など、感想文は書いたことがあっても意見文はほとんど書かなかったという学生さんは多いです。そのような学生さんは、例えば今回の問題だとナイトゲームに反対という意見の根拠として、「炎天下でがんばっている姿が好きだから」などと書いたりします。このような自分の好き嫌いや感情ではなく、「ナイター設備のない学校が不利になる」「選手や応援の生徒の帰宅時間が遅くなり危険」「生活リズムが乱れる」などという根拠を引き出し、論理で文章を組み立てることを身に付けてもらいます。

文章表現の授業は書く技術を身に付ける授業ですが、書くことだけでなく論理的に考えることが大学で学ぶことすべての基本であることを知ってほしいのです。私が授業を担当している大学では「日本語表現」は前期が基礎・後期が応用の必修授業ですので、前期は型を使うことと感情でなく論理で考えることを身に付け、後期では1つのテーマにつき2、3コマを当ててじっくり考えてもらっています。

第10回 インタビュー

大学の文章表現の授業ではインタビューについてとりあげます。第5回で引用について取り上げましたが、引用は参考文献だけでなく誰かから聞いた話からすることもあるからです。本格的なインタビューをするレベルまではいかなくても、取材に行くときの最低限のルールを身に付けておく必要があります。

具体的には、次のような内容をハンドアウトにして配布し、授業内で簡単な「インタビューごっこ」をしています。

 

  1. インタビューを申し込む 対面・電話・電子メール・手紙・その他
  2. 予習をする 調べておくこと、読んでおく本のリストを作る。その人について、またインタビューでその人に尋ねるテーマについて、予習しておく。
  3. 質問のメモを作る
  4. 持っていくものを用意する 鉛筆またはシャープペンシル(仕事場でインタビューするときなど、インクで周囲を汚すことのないようにペン類は避ける)・メモ用紙またはノート(立ったままメモをとれるので固い表紙のものがおすすめ)・カメラ・レコーダー(録音していても固有名詞や数字は必ずメモを取る。漢字はその場で確認しておく)・その他
  5. インタビュー相手に確認すること  テープを使っていいか(相手が快諾してくれても場所によっては使えないこともあるので注意)・写真を撮っていいか(同上)・提出前にチェックが必要か(インタビュー相手にチェックしてもらうことになった場合、締め切りがあることを十分理解してもらうこと)・その他の制限(聞かないでほしいこと、話の流れで話してしまったが書かないでほしいということがないか、開始前と終了時に確認する)
  6. テープ起こしをする まず一字一句正確に文字に起こす→全体の中で使うところ、削るところを決める→使う箇所の文章を加工する(方言・口癖をどのくらい再現するか?・語尾の扱い(必要に応じて「?」「(笑)」などを使う)・間違った言葉遣いをどうするか?)
  7. レポートにまとめる
  8. 原稿のチェックを依頼する
  9. お礼をする(当日夜にお礼のメールか葉書を書く、完成後にお礼状とレポートのコピーを郵送する)

神戸山手大学では前期の最終課題がインタビューなのですが、家族や友人以外、できれば初対面の相手にインタビューをしてくることになっています。インタビューを受けて下さった例では次のようなものがありました。

  • 大学周辺のよく立ち寄る喫茶店。個性的な店なので経営している人の話を聞きたい。
  • 大学周辺のNPO法人。活動内容に興味があった。
  • サークルの先輩・母の友人・友人の友人で既に働いている人を紹介してもらう。社会人の生活を聞きたい。
  • 趣味でよく行く店の店長。自分もそのような店を持つことに憧れているので、開店までのことや店を運営する楽しさ・苦労などを聞きたい。
  • アルバイト先の店長。仕事では話をするがお互いのことはほとんど知らない。
  • 近所の商店街にある店の主人。以前から感じのよい店だと思っていたので、仕事についての考えなどを聞きたい。
  • 母の友人の専業主婦。専業主婦になりたいので実際のところどのようなものかを聞きたい。
  • ご近所で家族の介護をしている方。会釈くらいしかしたことがなかったが気になっていた。
  • 友人の母親。友人との付き合いの中でいい母親に育てられたのだなあと思うことが多かったので、子育てについてどう考えていたのかを聞きたい。
  • 友人の友人。別の大学の学生がどのような学生生活を送っているか知りたい。

インタビューに当たっては、自分の都合で相手の時間を奪うことになるのを十分理解し、失礼のないように振る舞ってほしいのですが、あまりそれを強調すると、いまどきの学生さんの特徴なのか、尻込みして申し込めなくなってしまうのが悩ましいところです。時間は30分前後がほとんどです。店舗を持っている方なら開店前に、社会人の方には昼食をご一緒してインタビューをしたりするなど、それぞれ工夫していました。

また、インタビューの内容は個人情報に関わる部分が多いので、その点の配慮も必要です。レポートはふつうは授業の担当者しか見ないものですが、上記の配布物にあるように書いてもらいたくないことのチェックをする他、必要があれば仮名にしてもらうなどしてもらいます。神戸山手大学では昨年度から公開希望者のレポートを学生が閲覧できるようにしましたが、そこに至るまで保管の仕方や閲覧方法などについて話し合うことがたくさんありました。このように、インタビューの場合は個人情報の取り扱いに関しても十分理解してもらう必要があります。

第9回 説明文の練習

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知ってはいても正確な名前は知らないというものを説明文の課題に取り上げると、学生さんのノリがいいことが多いです。私はここ数年、春になると写真のものを集めています。ただで手に入り持ち運びも簡単で、説明文を書く練習にもってこいです。

 

ハンドアウトには以下のようにカードを使ったデータの整理法を提案しています。

 

問題 各グループに配布する、ある物についての説明文を書きます。

1.その物について説明しようと思うことを、小さなカードに書き出しましょう。
  1枚のカードには1つの情報を。文章にせずメモ程度で。
2.ある程度メモがたまったら、分類してグループに分けます。
  複数のグループに入れた方がよいものがあれば、同じカードを作りましょう。
3.2で分けたグループに、必要があれば見出しを付けましょう。
4.それぞれのグループの関係を、矢印などのカードで示しましょう。
  大きな模造紙などの上で作業をして書き込んでもかまいません。
5.どの順番に説明文を書けばいいのか考えて、各自でアウトラインを作ります。
6.アウトラインに従って常体(だ・である調)で 600字程度の説明文を書きましょう。

 

まず、形・大きさ・厚さ・色・重さ・材質などが説明すべき点の候補でしょう。この中では形を説明するのが少々難しいようです。切れ込みの部分を上にするか下にするか、輪郭と穴とのどちらの部分を説明するかで違ってきます。絵を再現する授業を思い出して、説明をしながら形を描いてみてもいいでしょう。

次は使い方についての説明です。同じ用途の物が他にないか、それらと比べての利点などを考えるのもいいでしょう。私が授業を担当している大学はシニアコースがありますので、これがなかったころは何が使われていたかという情報を提供してもらいました。一方、就職活動を控えた学生さんの中には、これを売り込むセールスマンになりきって利点をリストアップする人もいました。

この商品についてのアイディアがいろいろ出てきたこともありました。例えば店の電話番号や広告を印刷する、女子受けしそうな模様を入れるなどです。学生たちをこのままこの会社に採用してほしいと思いました。

 

このようにカードを使って情報を整理する手法として、KJ法があります。私は学生時代に川喜田二郎『発想法』を読んで以来、レポートや論文を書く際にこの方法をよく使っています。しかし霧芯館―KJ法 教育・研修―KJ法の本質を学ぶ のサイトには、

種々のメディアには、KJ法についての粗雑な概括や誤った情報の掲載が数多く見られますが、それらの多くは、KJ法を矮小化するものです。つまり、KJ法でなくとも可能な、単純な情報の整理や分類の技術として紹介しているものがほとんどです。また、創案者が、データに対する際に最も排除すべきであると考えた姿勢・態度によってKJ法を解釈しているものもしばしば見受けます。
とあり、今回の授業で行う作業程度はKJ法とは呼べない「単純な情報の整理や分類の技術」かもしれません。しかしこれはこれで説明文のアウトラインを作るのに有効ですし、興味を持った学生には『発想法』を参考文献として薦めています。

 

ところでこの商品の名前が最後までわからないときは、宿題にして次週までに調べてきてもらいます。調べるために使った本の書名や、インターネットで検索した場合はどのような語句で検索したのかを教えてもらいます。食パンを製造したメーカーに電話をしたという猛者もいました。
 
という質問もあります。
また、こういった物の名前についてはいろいろな本が出ていますが、その中でも
はさすがのおもしろさです。学生さんが物の名前を探すのに使う以外に、私たち教える側も練習問題を作るのに利用できます。 

コピペレポートに関するぼやき

このブログを始めた理由の1つに、自分の授業を記録しておきたいからということがあります。文章表現の授業を持っている非常勤先の1つで、webで授業を配信するのはどうかという話が出ているのを知ったからです。映像や音声で記録されないからといっていい加減な授業をしているわけではありません。しかしやはり、記録されるとなると気を遣います。どのみち授業のweb配信は、今後あちこちの大学や専門学校で実施されることでしょうし、ここら辺りで一度、自分がどういう内容をどういう風に教えているかを振り返っておこうと思ったわけです。

そんなわけでここでは来るべきweb配信を見据えた、当たり障りのない、きわめて無難なノリの文章を綴っているわけですが、はてなの日記の文章表現関係の記事はもう少し自由に綴っていました。

一連の記事の題材はいわゆるコピペのレポートについてです。今読むと、ちょっとここはどうなの? と思う部分もありますが、以下にリンクを張っておきます。

ネットからの引用がダメな理由 - 固窮庵日乗

ネットの記事を引用すること - 固窮庵日乗

もう不毛なコピペはやめよう その1 - 固窮庵日乗

もう不毛なコピペはやめよう その2 - 固窮庵日乗

もう不毛なコピペはやめよう その3 - 固窮庵日乗

年寄りの繰り言みたいに同じことを何度もぼやいていますが、引用したエコの文章はやっぱりカッコいいです。

批評文献の本文は、その権威によってわれわれの主張が確認もしくは確証される場合に限り、引用すること。……批評文献を引用するに当たっては、引用が何か新しいことをもたらすものであるように、あるいはまた、引用が君の述べたことを権威をもって確証するものであるように、確かめなくてはいけない。(ウンベルト・エコ『論文作法――調査・研究・執筆の技術と手順――』188頁 而立書房1991年)

同じ内容を私は授業で「箔が付くもんを引用しやなあかん、そうやないと引用の意味ないですよ」と話しています。この格調のなさ……。

第8回 引用のマナー

文章表現の授業で身に付けるべき最も大切なことは、引用のマナーだと言えるでしょう。論理的な文章を書けるようにならなくても、サエない(あえてこう言いましょう)昨日の続きがあるだけですが、引用のマナーを守らずに著作権法に違反してしまったら、金銭的にも時間的にも、そして精神的にも大変ダメージを受けることになるからです。

 

ここで問題になるのは、引用について記された著作権法第32条第1項です。 

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

この内容は文化庁「著作権なるほど質問箱」に引用の条件として次のようにまとめられています。

ア 既に公表されている著作物であること

イ 「公正な慣行」に合致すること

ウ 報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること

エ 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること

オ カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること

カ 引用を行う「必然性」があること

キ 「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

まず「公表された著作物は、引用して利用することができる」とあります。私たちは自分で1からオリジナルの物を作り上げるなどということはまずありません。ほとんどの場合、先人が築き上げた業績の上に、そっと1つ新しい煉瓦を積み重ねるのです。レポートや論文などを書く場合、先行研究の引用は不可欠です。そこで公表された本や雑誌論文などを引用することになります。

(ネット上にある文章も世界中からアクセスできるわけですから「公表」したことになります。ブログの文章やTwitterの呟きを引用されてもそのこと自体に文句は言えないということになりますね。もちろん、無断転載などは論外です。これは「出所の明示」がされていないからです)。

そしてその引用は、イにあるように「公正な慣行」に則ることを求められているのですが、これは具体的にはウ~キのことであると考えられます。第5回で学んだ、具体的に事実を表す文を書くという姿勢を崩さないでいれば、この「公正な慣行」をクリアできるでしょう。すなわち、

○○は「○○」と言っている。
『○○』によると「○○」ということだ。

などという形で、自分の文と引用文をきっちり区別して書き、文章の流れの中でその引用が必要であることが誰にとっても明らかで、分量的にも自分の書いた文章が主であれば、著作権法上、何の問題も起こらないと考えられます。

 

一応、引用文の書き方を記しておきますと、原文通りに引用する場合は、

 ① 原文が短いもの…かぎかっこ「  」でくくる。
 ② 原文が長いもの…全体の文頭を二字下げて書く。

というのがルールで、これは具体的には次のようになります。まず①の例。

 『日本国語大辞典』(第二版)によれば、「ぺけ」とは、「拒否、拒絶するさまにいう語。だめ。いけない。気に入らぬ。また、役に立たないこと。間の抜けていること。また、そのさま。いくじがなくなる。だらしなくなる」という意味である。

辞典は版を書いておく方がいいです。次に②の例。

 うさぎが飼い主やその家族に対して攻撃的な仕草をすることに関して、日本ウサギ協会の『うさぎの飼い方相談室』には、次のような記述がある。

  生後半年ほどのウサギは思春期を迎え、縄張り意識が強くなってきます。

  室内で飼育している場合は、家族の中で自分の優位性を主張する行動をす

  るのです。この時期のウサギは噛みついたり、足で床をたたいたりという

  行動を取るケースが多く報告されています。トイレ以外でおしっこをする

  ようになるのも、自分の縄張りを主張しているのだと考えられます。

このように、うさぎは家の中で誰が一番強いかの順序づけをしているのである。

*これブラウザによってはズレています。どうしたらええの……

もう一つ、原文通りに引用しない場合は、

 日本ウサギ協会によると、良質なペレットや牧草より、市販のウサギ用おやつや甘い果物を安易に与える飼い主が増えているとのことである。

下線部のような書き方で、引用した内容を明らかにします。こういった書き方は小学校の作文の授業から繰り返してきましたね。

 

「エ 引用部分とそれ以外の部分の『主従関係』が明確であること」については、自分の書く文が「主」で引用文が「従」になっていないといけないということでしょう。内容面ももちろんですが、分量という点に於いて、木下是雄『レポートの組み立て方』では「引用文は自分の書く全文の2割以内を目安にする」としています。2割というのは1つの意見で、たとえば3割だったら絶対にダメなのかというと必ずしもそうではありません。しかしレポートの書き方の本などでこの点について具体的な数字を挙げている本はほとんどない中、2割という数字は参考になります(『理科系の作文技術』で「事実を表す文」を提唱した木下是雄氏の面目躍如といったところでしょう)。

 

引用する際に注意すべき点として、次の2点を守りましょう。

① 原文の表記に忠実に書く。
② 必ずもとの著作物から直接引用する。孫引きは極力避ける。

これは要するに、自分の文章を引用されるときに、されたら嫌だなということをしなければいいのです。①についてですが、こだわりのある表現・漢字の字体・仮名遣いなどを、引用の際に勝手に変えられていたら……大阪弁で言うところの「気ィ悪い」。原文は何が何でも尊重しましょう。

引用でどれだけ原文を尊重するかというとですね、誤字があってもそのまま引用するくらい尊重するのです。しかし誤字をそのままにしておくと、引用の際に写し間違えたと思われるかもしれません。そんな場合は誤字の部分にルビの形で小さく「ママ」と書いておくか、次のように書きます。

関西うさぎ友の会の会報『うさ☆ぴょんだより』2014年6月号によると、「ウナギ(原文ママ)の中でも近年ネザーランドドワーフの人気が急上昇している」ということだ。

しかし「ママ」を乱発するのは慎んだ方がよいでしょう。実は間違いではなくそういう表現や文字遣いがあった場合、「ママ」は残酷に自分の無知を示してしまうからです。

次に②の注意点、孫引きの禁止についてです。孫引きとは「デジタル大辞泉」によると「直接に原典から引くのではなく、他の本に引用された文章をそのまま用いること」です。これは人間関係に置き換えてみればよくわかるでしょう。Aさんがこう言ってたよ、とBさんから聞いたのでは、Aさんの気持ちが正確に伝わっているのかどうかわかりません。そこには必ずBさんの解釈が入っています。もしかすると誤解があるかもしれませんのでBさんと直接話すべきでしょう。

レポートなどを書くために借りてきた参考文献AにBが引用されていて、それをあなたも引用したくなったら、孫引きはやめてBも読みましょう。参考にしようと思ったAが引用したのですから、あなたにとってもBは参考になるはずです。

Wikipediaの引用がよくないとされるのも、孫引きがダメだという点で理由の1つを説明できます。Wikipediaの記事の下の方にある参考文献や参考のサイトまで遡って勉強し、引用すればいいですね。

 

ついでにインターネット上の文章を引用する場合の注意点をいくつか書いておきましょう。

ネット上の文章は削除されたり書き換えられたりする場合があるので、念のため閲覧した頁は画像の形で保存しておくとよいと思います。EvernoteのWeb Cripper など便利に使えるツールがあります。また、データを取得した日時を記しておくとよいでしょう。

ネット上の文章に対して、紙に印刷して出版されたものはそのすべてが消滅してしまうということはまずないので、同様の内容が紙の著作物にも書かれている場合はそちらを優先する方が安心です。
また、ネット上には著者の本名がはっきりしないものなど、信頼性の低いものがあふれています。そういうものは引用すべきではありません。引用は自分の書くものに箔を付けるためにするものであって、わざわざ信頼度を落とすようなものを持ってくることはないのです。

あれこれ書きましたが、自分の書いた文章を引用されるときにされたくないことを想像するだけで、引用のマナーは理解できるのではないかと思います。

専門学校のコマ数について

文章表現の授業は、私が担当している大学では1年生の必修科目で、週1回1コマを通年で30回、専門学校では1年生の前期に7、8回行います。大学の15コマ授業ですと7、8回は折り返し地点ですが、専門学校では早くも最終回になります。文章表現の授業は「国語表現法」などの科目名で、専門科目以外の、一般教養を身に付ける科目の1つに過ぎないからです。

実感として、論理的な文章の書き方を身に付けるのにこのコマ数は少なすぎます。文章表現の授業は専門学校に於いても他の教養科目と同一にするのではなく、すべての科目の基礎と位置づけて、少なくとも半期に毎週、15回授業をするのが望ましいと思います。

もちろん、7、8コマでできないことはありません。文章を書くのにある程度慣れている人が、それまで自覚していなかった段落分けやトピックセンテンスについて改めて知るという場合なら、6コマ程度で十分だと思います。しかし現実には、高校卒業までに論理的な文章を書くレッスンを受けてきたという学生は少数派で、それが身に付いている学生にはほとんどお目にかからないのです。

専門学校の文章表現の授業があまり重んじられていないのは、その学習内容が専門の先生方に知られていないからではないかと思います。多くは高校までの国語の授業の延長をイメージされているようです。中にはそのような授業をなさる先生もおられることでしょう。私も専門用語の漢字テストを実施しているという方にお目にかかったことがあります。しかしこれからは、論理的な文章を書くための能率的で系統だったトレーニングに切り替えるべきだと思います。

専門学校では見学や実習の授業も多く、その都度レポートを書くことになります。それらの授業と連動して、学生の方も必要性を実感しながら、仕事に直結する論理的な文章の書き方を学んでほしいと思うのです。