文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

第7回 わかりやすい表現にする

いい文章を書けるようになるためには多くの本を読みなさいーー文章の書き方の本にはよくそういうことが書いてあります。これは真実だと思います。

例えば、ピアノを弾くことについて考えてみましょう。ピアノというのはバイオリンなどと違って、誰でも最初から鍵盤を叩けばちゃんとした音を出すことができます。しかし、ピアノの曲が演奏されるのを一度も聞いたことのない人に、ピアノを演奏しろと言ってもできないでしょう。楽譜を読むことを習い、その通り弾くことができても、ただの機械的な音の羅列になるのではないでしょうか。それはピアノを弾いているということにはならないと思います。

読書の習慣のない人に文章が書けないのもこれと同じです。豊かな語彙と表現、文章のリズムを味わったことのない人が、同じようなものを書けないのは当然のことだと思います。しかし、ほとんど、時には全く、本を読まないという学生さんは存在するのです。

私は、本を読む習慣のほとんどない学生さんに文章の書き方を教えるのは無理だと思います。こう言うと指導を投げ出しているかのように思われるかもしれませんが、実際、限りなく不可能です。それは例えば、名演奏家のCDであれ指導者の「お手本」であれ、一度もピアノの演奏を聴かせずに、楽譜の読み方と音の出し方だけを教えるピアノのレッスンのようなものと言えば、わかっていただけるかと思います。

私がもし大学の初年時教育に関わる仕事をしていたら、月1冊は新書レベルの本を読むことを義務づけたいと思っています(文章表現と論理学の授業を1年生の必修にして、入学前の春休みにリメディアル授業として文系の学生にも高校程度の数学と物理・生物・化学の復習をしたいとも思っています)。何も文学作品を読まなくてもいいのです。社会問題や、自身の将来の仕事に関わる専門の内容について取り上げた本を読む習慣を身に付けてほしいのです。

 

しかし、やみくもに多くの本を読んだからといって、それが即わかりやすい文章を書く力になるというわけではありません。多くの本を読んで自分の語彙や表現を増やしつつ、効率的に文章表現のレッスンをしたいものです。わかりやすい表現にするには、ある程度、押さえておくべきポイントというものがあります。それは、

  1. 長すぎる文章を書かない
  2. 必要な要素を落とさない
  3. くだいて書く

ということです。

 

長すぎる文を書かない

 

まず、長すぎる文を書かないようにする、これだけでかなりわかりやすくなります。文章を書き慣れている人なら、たとえ長くなっても係り受けを流してしまうことはないでしょうし、主語がブレていつの間にか受け身が能動態になって文が捻れているということにもならないでしょう。しかし、書き慣れていない人にはそんなことは難しく、わかりにくい文章になりがちです。

 血液型占いとは、日本で、それぞれの血液型の人の運勢を占ったり、血液型で相性を占ったりもして、A型は几帳面、B型は自由奔放、O型はリーダーシップをとるタイプ、AB型は個性的というように、ABO型の4種類の血液型それぞれに特徴的な性格があるとされ、流行している性格占いの一種である。

これは1つの文で1段落にしてしまった例です。まるで舌足らずに喋っているのをそのまま文字にしたような書き方です。こういうタイプの文は3~5文に区切ってみるとわかりやすくなります。

 血液型占いとは、日本で、それぞれの血液型の人の運勢を占ったり、血液型で相性を占ったりもして、A型は几帳面、B型は自由奔放、O型はリーダーシップをとるタイプ、AB型は個性的というように、ABO型の4種類の血液型それぞれに特徴的な性格があるとされ、流行している性格占いの一種である。

下線を引いた部分を繋げて1つの文にします。これがトピックセンテンスになります。性格占いの一種→それぞれの血液型の具体的な性格→それによって占うもの という流れになるように並べると、読む人が理解しやすくなります。

 血液型占いとは日本で流行している性格占いの一種である。A型は几帳面、B型は自由奔放、O型はリーダーシップをとるタイプ、AB型は個性的というように、ABO型の4種類の血液型それぞれに特徴的な性格があるとされている。それぞれの血液型の人の運勢を占ったり、血液型で相性を占ったりもする。

このように、提出物などの長い文を加工して問題文を作り、文を切るレッスンが効果的です。その際、次のような条件を設定しておくとよいでしょう。

  1. 3文以上、5文以内にくぎること。
  2. 書き直した文章の意味が、もとの文章の意味と変わらないようにする。
  3. くぎられた内容の順序は、条件1の範囲でもとの文章と変わってよい。

 

必要な要素を落とさない

次に、意味がわからなかったり2通りの意味にとられてしまったりする文は、必要な要素が抜けているのが原因だということを理解する必要があります。いわゆる5W1Hーーwhen(いつ)・where(どこで)・who(だれが)・what(何を)・why(なぜ)・how(どのようにして)ーーを意識してもらいたいのです。

ふだんの会話やメールのやりとりなどでは、こういった要素が抜け落ちがちです。例えば、夕食を終え、歯も磨き終えたころメールが届きました。アルバイトが終わった姉からです。「ドーナツ買って買えるね。一緒に食べよう」。このメールに対して、次のような返事を打ったとします。

もう歯磨いた。

この場合、「もう歯を磨いた。」というのは、「もう(私は)(私の)歯を磨いた。」ということになります。しかし「私は私の歯を」などと書かなくても、姉には十分通じるでしょう。

しかし、そういった背景の事情を共有していない人には伝わりません。この文は主語と誰の歯であるかが抜けているため、他のいろいろな状況が考えられます。

例えば、歯科医院で歯科医が歯科衛生士に「2番の田中さんは?」と診察の進行状況を尋ね、「もう(私が)(田中さんの)歯のブラッシングを済ませました。」という場合。

また、赤ん坊の初めて生えた1本目の歯をその母親が磨き(ガーゼでキュッキュッと磨くのです)、自分が磨こうという子育てに協力的な夫に、「もう(私は)(この子の)歯を磨いた。」と伝える場合。

ここで1つ注意してほしいのは、日本語の場合、単数複数の区別をしない表現が多いことです。赤ん坊のたった1本の歯を磨く場合も、大人の30本前後の歯を磨く場合も、たいてい「歯」としかいいません。文章を英語に直す可能性のある場合、日本語としては少ししつこくても、単数か複数であるかなどはわかるようにしておくか、場合によっては調査や実験のノートにきっちり書いておく習慣を付けましょう。日本語で書いた論文を英語に直そうとして、複数形のsを付けるか付けないかがわからず、実験をやり直したという話を聞いたとこがあります。

声の調子や表情のある会話では5W1Hを省略してもかなり通じるので、文章を書き慣れておらず“話すように”書こうとする人は、わかりにくい文章を書きがちです。自分でわかりきっていると思うことも、意識して言葉を足しながら書くようにしましょう。例えば次の文章の場合、

 血液型占いは目くじらを立てることはないと言う人もいる。しかし、血液型占いはB型が自己中心的、AB型が変人など、否定的なイメージがある。私の友人でB型の人がいるが、からかわれるのが苦痛で知られたくないと言っていた。子供たちの間ではいじめに繋がるおそれもある。これに対して、星座や干支を使った占いでは、血液型占いのように悪く言われることはないのだ。

傍線の語句を足しながら、以下のように書くとわかりやすくなります。

 血液型占いは単なる遊びで目くじらを立てることはないと言う人もいる。しかし血液型占いはB型が自己中心的、AB型が変人など、特定の血液型の人に否定的なイメージがある。私の友人でB型の人がいるが、からかわれるのが苦痛で自分の血液型を知られたくないと言っていた。子供たちの間では血液型が原因のいじめに繋がるおそれもある。これに対して、星座や干支を使った占いでは、血液型占いのように特定の星座や干支が悪く言われることはない。

 

くだいて書く

最後の「くだいて書く」は、具体例や理由を示しながら書くことです。話すように書いたわかりにくい文章を例に挙げます。

 通信販売で買い物をするとき、住所や名前などを知らせることになるが、商品を売るためだけで、懸賞に応募して送った場合も同じことが言えるが、別の目的に使用してはならず、使用したいときは、通知して同意を得なければならない。

これは1つの文が長い上に、必要な要素も抜け落ちています。通信販売を利用したり、利用しなくてもどのようなものか知っている人なら、なんとか内容が理解できますが(だからといってこれでいいわけではありません)、買い物は近所の商店街でしかしたことがないという年配の方には難しいでしょう。

  • 信販売で買い物をする…通信販売って何?
  • 住所や名前などを送る…誰が? 誰の住所や名前? どこへ?
  • 商品を売るためだけ…売るときにどのように利用するの?
  • 別の目的に使用…別の目的って?
  • 懸賞に応募して送った場合…なぜ懸賞の話? 何を送るの?
  • 同じこと…何が同じ?
  • 通知して同意を得なければならない…誰に通知するの? 誰の同意?

まず、このような疑問が出ないように、必要な要素を埋めながら書きましょう。そして、それぞれに例や理由を書き足すのです。

  • 信販売で買い物をする…通信販売の例。テレビショッピング・カタログ・インターネットなど。
  • 住所や名前などを送る…電話で伝えたり、葉書を送ったり、インターネットで送信したり。
  • 商品を売るためだけ…ゆうパックや宅配便。
  • 別の目的に使用…ダイレクトメール、選挙運動、各種勧誘。
  • 懸賞に応募して送った場合…懸賞と通信販売の類似点。

くだいて書くと400字程度、個人情報保護法を引用して書くと600字程度になるでしょう。アウトラインを載せておきます。

  1. 信販売とは 1-1通信販売の定義 1-2通信販売の具体例
  2. 信販売の仕組み
  3. 信販売における個人情報の使用について
  4. まとめ

 

長すぎる文や必要な要素が抜けている文は、話すように書く人が陥りがちな悪文です。読書で文章のリズムを身に付けてほしいものです。

第6回 要約 

要約の技術を身に付ける第6回は、医療系の専門学校で担任の先生から「ぜひ練習させてください」と言われて始めたものです。文章表現の授業で身に付けてほしい技術というのはどこの学校であれ共通していますが、専門学校の場合、大学の半期の更に半分ほどのコマ数しかありませんので、何に重点を置くかは重要です。他の科目の実験や実習などで学生さんが提出したものを見せてもらったことがありますが、非常に参考になりました。できるだけその学校向けにカスタマイズしたいものです。

 

当初予定していなかった要約ですが、大学の授業でも取り上げることにしました。わざわざ取り上げなくてもよいと思っていたのですが、やってみると苦手な学生が非常に多いことがわかったからです。しかし、苦手では済まされません。

要約の技術を身に付けると、

  • 文章を書くとき、指定の字数で書けるようになる。
  • 文章の引用をする必要があるにも関わらず字数が足りないという場合、要約することで対応できる。

これはレポートなどを書くときにすぐに必要になる技術です。 

 

 

さて、要約が苦手な学生さんが多いと書きましたが、苦手というより、要約の意味がわかっていないといったほうがいいかもしれません。文章の内容が理解できていないのでまったく要約できないというケースよりも、むしろ次の2つのケースが目立ちます。

  1. 要約というより映画などの予告編のような文章になっている。
  2. 原文が用いている用語を意図的に変えている。原文にない表現を意図的に使っている。

1のケースは学会発表の要旨にも見ることがあります……。要約は予告ではないと理解してもらうしかありません。

2のケースについては、受験勉強の弊害といえそうです。複数の学生さんによると、高校や予備校で「原文を引用したり要約したりするときには、自分の言葉で置き換えられることが原文の内容を理解しているというアピールになる」と習ったそうです。これは一種の受験テクニックだとか。

しかし、引用の場合も同じですが、原文の著者の言葉や表現は尊重してできるだけそのまま用いるべきです。また、言葉や表現以外にも、文章の流れを変えるのも避けるべきです。わざわざそのようなことをする必要はありません。もし変えるとしたら、どうしても変えなければならないという理由が必要ですし、相当の覚悟をもって変えなければならないと思います。

上記の2つは要約ではないと理解してもらえば、あとは練習です。

 

実は、論理的な文章の要約は非常に簡単です。今までに文章表現の授業で身に付けた技術を用いるとよいのです。

  1. 段落分け:1つの段落に1つの内容が書かれていることがほとんど。
  2. トピックセンテンス:トピックセンテンスにその段落の内容が凝縮されている。
  3. 5W1H:どれだけ短く要約しても、伝えるべき情報は落とさずに。

新聞記事などを用意して、要約の練習をしましょう。新聞記事の場合、トピックセンテンスを繋げていくだけで要約文がほとんどできあがります。後はそれに手を加えていくだけです。

エッセイや文学的な文章になると、このように単純ではないので難しくなります。それについては別の回で。

 

*新聞記事などを授業で利用する際は、文化庁の「学校における教育活動と著作権」が参考になります。

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/hakase/pdf/gakkou_chosakuken.pdf

第5回の補足

幸運なことに授業が予想外に盛り上がることが時々あります。第5回目の授業は、提出物の題材に血液型占いを取り上げました。始めに、各血液型別の「○型のあなたはこんな人」という文章を配布して読んでもらいます。クラスによっては「当たってるよね」などという声もあがります。

実はこの血液型性格診断の文章には仕掛けがしてあって、元の文章と血液型を入れ替えているのです。当たっていたと思った文章がまったく違う血液型のものだったということを明かして、「バーナム効果」を体験してもらうのが目的です。

A型のあなたは几帳面な性格です。

ここで第2回の授業内容を思い出してほしいのです。血液型占いによくあるこのような文は、「事実を表す文」ではありません。几帳面という言葉から想像するイメージには幅があります。誰かのことを多くの人が几帳面だと言っても、そうは思わない人がいるかもしれません。

  1. A型のあなたは几帳面な性格です。
  2. A型のあなたは授業別に色分けして配布物をファイルしています。

1の文は事実を表す文ではなく意見で、事実を表す文は2のように具体的に判断できるように書かれているのでしたね。

事実を表す文ではない書き方がいかに危ういものなのか、実際にわかってもらうのに、この「○型のあなたはこんな人」は有効です。

***

この第5回はこちらであらかじめ資料を用意して、資料を引用する型を学んでもらうのが目的でした。

問題2 効果的に段落を分け、トピックセンテンスを用い、資料を引用して、「血液型占い」についての意見文を書きましょう。

昨年度はこの題材が学生さんの興味と合致したのか、1回で終了の予定が、配布物にある以外の資料も自分たちで集めることになりました。血液型ハラスメントや血液型による差別の歴史など話題も広がり、私にとっても刺激的な授業になりました。

このように学生さんがやる気になって、自分の書きたいことがきちんと伝わるように書くためにはどのような技術が必要なのか、それを自覚して学ぶのが理想的です(なかなかうまくいきませんが)。このタイプの授業は専門学校では7、8コマ(1コマ90分)になることが多いので、必要最低限のことを押さえるだけで終わってしまいがちですが、大学の場合は反応次第でコマ数を増やし、内容を深める時間をとるとよいと思います。

第5回 資料を引用して書く

もう5回目の授業になりました。すでに段落分けとトピックセンテンスについて学びましたが、今日はそれに加えて、資料を1つ引用して書いてみます。

本題に入る前に第2回の事実を表す文について復習です。これは論理的な文章を書くための基礎の基礎であり、非常に重要なことなのでしつこく繰り返しますよ。

 

問題1 次の1から5の文で事実を述べている文を選び、番号に○を付けましょう。

  1.     摩耶山から見下ろす夜景は素晴らしい。
  2.     神戸の友人は摩耶山から見下ろす夜景は素晴らしいと言っている。
  3.     摩耶山の掬星台は神戸と大阪の夜景を見下ろせる展望広場だ。
  4.     『たびまっぷ神戸』に「摩耶山の掬星台は神戸と大阪の夜景を見下ろせる展望広場だ」と書いている。
  5.     『たびまっぷ神戸』によると摩耶山から見下ろす夜景は素晴らしいそうだ。

 

1の文が意見であることはもうわかると思います。では、2はどうでしょう?

   神戸の友人は摩耶山から見下ろす夜景は素晴らしいと言っている。

2は1の意見を表す文を含みますが、全体では

   神戸の友人は○○と言っている。

という文になっていますので事実を表す文といえます。

このような形を引用と言います。何かを引用した文は事実を表す文の形をとっています。そして4のように

  『たびまっぷ神戸』に「摩耶山の掬星台は神戸と大阪の夜景を見下ろせる展望広場だ」と書いている。

と引用部分を「」で表すのがふつうです。

本や新聞記事などを引用して文を書く場合、「」内は一字一句原文の通りに書きます。漢字や仮名遣いが私たちの書く地の文と違っていても、原文通り書きます。漢字の字体にこだわる人や歴史的仮名遣いを用いて書く人もいるので、私たちはそれを尊重しなければなりません。どれだけ尊重するかというと、明らかな誤字であってもそのまま引用するくらい、尊重します。そのときはなんだか気持ちが悪いので引用の誤字の部分に「ママ」とルビを振ったりします。「ママ」とは原文のままという意味です。

  『たびまっぷ神戸』によると摩耶山から見下ろす夜景は素晴らしいそうだ。

ように、「」を使わず原文通り書かない場合もあります。引用元が長いので要約する場合などがそうです。この場合は原文の意味が少しでも変わらないよう、慎重になりましょう。

 引用のルールについては後半でも取り上げますが、今回は、引用をするときは事実を表す文の形として書くということを覚えて下さい。

 引用して書く文にはいろいろな型がありますが、以下にいくつかを示しておきましょう。

   引用して書く文の例(字句通り引用する場合)

1○○は「○○」と言っている。   

2○○は「○○」と話した。   

3『○○』によると「○○」ということだ。

4○○は『○○』において「○○」と述べている。

5○○は「○○」(注n)と述べている。

ではさっそく、何か1つ資料を引用して文章を書いてみましょう。

今回書くのは意見文です。ブレーンストーミングをして、あなたの意見をはっきりさせてから書き始めましょう。意見文の場合、短ければ短いほどブレずにはっきり書くように心がけてください。そうでないと、けっきょく何が言いたかったのかわからない文章になってしまいます。

 

問題2 効果的に段落を分け、トピックセンテンスを用い、資料を引用して、「血液型占い」についての意見文を書きましょう。

 賛成か反対か、自分の立場をはっきり決め、読む人が納得するような資料を引用して書きます。文体は常体(だ・である調)、600字程度。

 

 段落は次のように構成します。

  1. 血液型占いとは
  2. 意見(賛成/反対)
  3. 意見の根拠(資料の引用)
  4. 予想される反論に対して反論
  5. 血液型占いの今後のあり方

 今回はトピックセンテンスは自分で考えましょう。思いつかない場合、前回のサンプルの真似をしてみてください。

 

(資料例)

バーナム効果 デジタル大辞泉 バーナム‐こうか〔‐カウクワ〕【バーナム効果】《 Barnum effect 》占いや血液型による性格診断など、だれにでも該当するような曖昧で一般的な性格に関する説明を、まさに自分のことだと思いこんでしまうこと。「私は血液型がA型だから几帳面」など。

BPO青少年委員会 「血液型を扱う番組」に対する要望         2004年12月8日

2004年12月8日 | BPO | 放送倫理・番組向上機構 |

◆「血液型人間学のデータの出所とは?!」(村上宣寛『心理テストはウソでした』講談社+α文庫 2008年)

気になる表現

文章表現の授業にはもれなく提出物のチェックが付いてきます。私は現在最大で週300枚弱チェックしています。昨年度は350枚程でした。1枚平均2分くらいかかりますので、90分授業で50人の提出物を見るとなると、授業と同じ時間がかかります。正直言ってこれはかなりの負担です。

 

提出物は手書きのことがほとんどなので、添削も手書きになります。実験や実習の記録、レポートの書き方などを学ぶのは早いに越したことはありません。そのため、こういった授業の多くは大学に入学してまもなく、少なくとも1回生の前期に設けられており*1、すべての学生がパソコンで提出物を作成するのは難しいからです。また、実習の記録や実験などで意外と手書きの習慣が残っているのも、提出物が手書きの理由の1つです。

 

しかしたとえば企業などの研修でこのタイプの授業を行う場合、受講生がパソコンで提出物を作成できるのなら、ソフトの添削機能などを利用することができるでしょう。

また、大学によっては添削のスタッフが別にいるところもあるようです。

 

学生の到達度を知り、次の授業に繋げるためには、講師自身が添削する必要があるとは思いますが、添削の一部について助けを借りることができれば、教材研究などに力を注ぐことができます。また、添削のスタッフを講師に育てることもできるかもしれません。

いずれにせよ、新しく文章表現の授業を担当する講師の方は、添削の負担について心づもりをしておいた方がよいと思います。

 

 

実際に提出物を見ていると、気になる表現はパターンが決まっていて、同じものが何度も出てきます。時間に余裕があれば授業の中で取り上げて直してみるのもいいでしょう。以下によくある例を挙げます。「→」右側は訂正例です。

 

  • あと→(削る)・また・さらに
  • いっぱい→数多く
  • いろんな→いろいろな
  • 起きれる→起きられる

   いわゆるら抜き言葉です。

  • 男、女→男性、女性・男の人、女の人

 「男」「女」だと事件の犯人や歌詞のイメージになってしまいます。

  • お年寄りの人→お年寄り・年を取った人
  • 外国人の人→外国人・外国の人

 気を遣うあまり変な表現になっている例です。

  • ~からすると→~にとって
  • キレイ→きれい・美しい

 女子に多く、男子には見られない表記。女性向きの雑誌などの影響かもしれません。

  • しんどい→辛い・苦しい

 これは故意に残している方言かもしれません。関西人ならわかっていただけると思いますが、「しんどい」にぴったりくる共通語はなかなか見つからないのですよね。

  • すごく→非常に
  • ~だけれど→~だが
  • 食べれる→食べられる

 ら抜き言葉の文法的説明がピンとこないなら、日常生活でよく使う「起きる」「食べる」は「起きられる」「食べられる」と「ら」がいるのだと覚えてしまいましょう。

  • ~ってゆう→~という
  • ~的には→~にとって
  • ~と思います。

 文体を統一していないものもよくあります。ずっと常体(だ・である調)で書いているのに、最後に「~と思います。」という一文で締めくくってしまうのです。小学校などでそのような作文の型があったのかもしれません。

  • ~とか→(削る)・等・や
  • 直す→片付ける

 片付けることを「直す」というのは関西方言。気がつかず方言を書いていることがあります。

  • ~なんだ→~なのだ
  • ~なんて→など
  • ~なんてこと→などということ
  • ~のことについて→について
  • むかつく→腹が立つ
  • めんどくさい→面倒だ
  • やっぱり→やはり
  • ~よりかは→よりは
  • 〜らへん→〜あたり

硬い文章にするのか、少しくだけた親しみやすい文章にするのかはケースバイケースです。最近は新書などもかなりくだけた文体で書かれているものが増えてきました。

 

硬い文章にしたい場合、がんばって書き始めても書いているうちに言葉が思いつかなくなってくることがあります。読書をして語彙を増やそうなどと言っておれない切羽詰まった学生さんには類語辞典を紹介します。

 

  • 不正確な固有名詞

 「ミスタードーナツ」なのか、「ミスタードーナッツ」なのか? 固有名詞は必ず検索などで確かめ、正確に書きましょう。

 また、人名などの異体字には注意が必要です。たとえば牛丼で有名な吉野屋の「吉」の上部は「士」ではなく「土」で下の方が長くなっています。

  • 商品名

 「宅急便」はクロネコヤマトが商標登録した語なので、一般的には「宅配便」と書く必要があります。

 「マジックインキ」や「ホッチキス」など、一般名詞だと思っていたものが商品名だったということはよくありますが、ものによっては普通名詞化しているかもしれません。

  • 略語

 「マクド」ではなく「マクドナルド」、「ケンタ」ではなく「ケンタッキーフライドチキン」。略さないで正確に書きましょう。

 これについても、例えば正式な場面では「携帯電話」と書くべきですが、場合によっては「携帯」や「ケータイ」がしっくりくるかもしれません。どんな文章が求められるか、ケースバイケースで判断しましょう。

  • 若者にしか通じない言葉

 方言と同じく気付きにくいものですが、どの世代が読んでもわかるように書きましょう。

*1:春休みのリメディアル科目として設けるのもよいと思います

第4回 トピックセンテンスを生かして書く 

ある程度長さのある文章を書くときには段落に分けます。その際、ただ何となく分けるのではなく、よりわかりやすい文章になるように分けましょう。そのためには1つの内容に1つの段落を作るとよいということを第3回で学びました。

 

第3回の課題「割り箸の使い方」の説明文の場合、段落分けを意識しないで思いつくまま書くと、たとえば次のような文章ができあがります。

 コンビニエンスストアなどで弁当を買うとたいてい無料で割り箸をもらえます。紙の袋やポリ袋に入っていることもあります。家庭用はスーパーや百円ショップなどで売っています。数え方は1膳です。箸は2本を1組として使います。

 食べ物に箸を突き刺すのはマナー違反とされていますので、それだけ気を付けてください。2本を一緒に、細い方を下にして、鉛筆を持つように箸の真ん中よりやや上を持ちます。中指を2本の間あたりに置き、1本は薬指と薬指に添えた小指で固定します。固定していない1本を動かし、食べ物を挟みます。

 箸の中でも割り箸は割って使うので割り箸という名前なのです。縦に溝が入っているので、まずこの溝に沿って2本に割ってください。割り箸は木や竹でできているので簡単に割れます。長さは20センチ前後です。やや細くなっている側は2本に裂けているのでこちらから割ります。 

 食堂にも割り箸を置いていることがあります。割り箸に限らず箸をきれいに持つのはなかなか難しいものですが、是非使いこなせるようになりましょう。食堂の割り箸ももちろん無料です。使い捨てで使用後は燃えるごみに出せるので、便利なので、屋外のバーベキューなどでもよく使われます。 

この文章を1つの段落に1つの内容になるように並べ替えて書き直します。内容とその順番は次のようにしてみました。

  1. 形や大きさの説明(写真などがあれば1は省く。)
  2. 割り方(使える状態にするまで)
  3. 持ち方(いわゆる箸の持ち方、完璧でなくてもよい。)
  4. どこで手に入るか
  5. その他、知っておいた方がいいこと

 割り箸は木や竹でできていて、長さは20センチ前後です。縦に溝が入っていて、やや細くなっている側は2本に裂けています。紙の袋やポリ袋に入っていることもあります。

 縦に溝が入っているので、まずこの溝に沿って2本に割ってください。割って使うので割り箸という名前なのです。箸は2本を1組として使います。数え方は1膳です。

 割り箸は2本を一緒に、細い方を下にして、鉛筆を持つように箸の真ん中よりやや上を持ちます。中指を2本の間あたりに置き、1本は薬指と薬指に添えた小指で固定します。固定していない1本を動かし、食べ物を挟みます。

 コンビニエンスストアなどで弁当を買うとたいてい無料で割り箸をもらえます。食堂に置いていることもあります。もちろん無料です。使い捨てで使用後は燃えるごみに出せるので、屋外のバーベキューなどでもよく使われます。家庭用はスーパーや百円ショップなどで売っています。

 食べ物に箸を突き刺すのはマナー違反とされていますので、それだけ気を付けてください。割り箸に限らず箸をきれいに持つのはなかなか難しいものですが、便利な割り箸を、是非使いこなせるようになりましょう。

これだけでもずいぶんわかりやすくなりますが、今回はさらにトピックセンテンスという考えを取り入れてみましょう。

 

トピックセンテンスとは、各段落の第1の文で、その段落の内容を示すものです。各段落(パラグラフ)にトピックセンテンスを立てるというのは、もともと英語から来た考え方で、トピックセンテンスも冒頭文や主題文と訳されることもあります。

トピックセンテンスを設けた段落の書き方はとても簡単です。

  1. 段落の頭では改行して、1字下げて書きはじめる。
  2. まず第1の文(これがトピックセンテンスになる)で、その段落で述べる内容は何であるかを読み手に知らせる
  3. トピックセンテンスで述べた内容を詳しくして、段落を作る。
  4. トピックセンテンスで述べていないことはその段落には書かない。(1つの段落に1つの内容という原則から外れるため。書くときは別の段落を作る。)
  5. 段落の終わりで、トピックセンテンスの内容を繰り返すと、段落がよくまとまり、読み手の理解を高めることができる。特に、長い文章の最終段落で繰り返すと効果的。

トピックセンテンスを意識して先の文を書き直すと次のようになります。

 これは、割り箸というものです。木や竹でできていて、長さは20センチ前後です。縦に溝が入っていて、やや細くなっている側は2本に裂けています。紙の袋やポリ袋に入っていることもあります。

 割り箸はその名前の通り割って使う箸です。縦に溝が入っているので、まずこの溝に沿って2本に割ってください。箸は2本を1組として使います。数え方は1膳です。

 では、箸の持ち方を簡単に説明しましょう。2本を一緒に、細い方を下にして、鉛筆を持つように箸の真ん中よりやや上を持ちます。中指を2本の間あたりに置き、1本は薬指と薬指に添えた小指で固定します。固定していない1本を動かし、食べ物を挟みます。

 割り箸はたいてい無料です。コンビニエンスストアなどで弁当を買うともらえます。食堂に置いていることもあります。使い捨てで使用後は燃えるごみに出せるので、屋外のバーベキューなどでもよく使われます。家庭用はスーパーや百円ショップなどで売っています。

 割り箸に限らず箸をきれいに持つのはなかなか難しいものです。食べ物に箸を突き刺すのはマナー違反とされていますので、それだけ気を付けてください。便利な割り箸を、是非使いこなせるようになりましょう。

太字にしたトピックセンテンスを繋げただけで、この文章全体の内容がわかるようになっていますね。

 

長い文を読むのは誰だって疲れるものです。居眠りしながら電車に乗っているときのことを思い浮かべて下さい。よほど熟睡しているのでもなければ、駅に着く度に眠りが浅くなったり目が覚めたりするのではないでしょうか。長い文章も同じで、あまり集中できずにぼんやり読んでいても、段落の変わり目ではやや集中力が高まります。そこにトピックセンテンスを置くのです。ざっと流し読みされたときも、トピックセンテンスを生かして書いた文章だとその内容をある程度理解してもらえます。

 

1つの段落に1つの内容で、トピックセンテンスを生かして書かれた文章の典型的なものは新聞記事です。試しに新聞記事を1つ、段落の初めの文だけを繋げて読んでみて下さい。どういう内容かわかるはずです。新聞は、朝の慌ただしい時間に読むことが多いものです。読者はまだ寝ぼけて頭がはっきりしていないかもしれません。そのような条件でも読みやすい書き方が、段落とトピックセンテンスの考えを生かした書き方なのです。

段落の第1の文がトピックセンテンスになっていない文章は、最後までじっくり読まないと何を書いているのかよくわかりません。入学試験の小論文や就職活動のエントリーシートなど、あなたの文章が何十枚、何百枚の中の一枚になることがあります。そういうとき、トピックセンテンスがはっきりしない文章は損をします。あなたの文章を誰もがいつでも最後までじっくり時間をかけて読んでくれるとは限らないのです。

 

トピックセンテンスを生かして書くといっても、具体的にどのように書けばいいのかわからない人は次のパターンを使うといいでしょう。

 

 予告 その段落で、どんなことを述べるかの意図をはっきりさせる

  最近よく飼われるようになったミニウサギについて紹介しよう。正確にはミニウサギという品種はなく、一般的にペットショップでは体重が2、3㎏までの室内で飼える小型のウサギを総称してミニウサギと呼んでいる。ピーターラビットのモデルとなったネザーランドドワーフや、耳の垂れたロップイヤーなどは人気があり、血統書付きの高価なウサギもいる。もちろん雑種で大きくならないウサギもいるが、子ウサギの時は最終的にどのくらい大きくなるか予想がつきにくいので注意が必要だ。

「~について説明しよう。」「~とはどのようなものであろうか。」というパターンです。~に話題になっている物を入れるとトピックセンテンスのできあがり。

 

 問題提起 これから述べようとする内容に対して問題を提起する

 ミニウサギがペットとして急速に広まったのはなぜだろうか。マンションに住む人の場合、犬を飼いたいと思っても飼えないところが多い上に、鳴き声が近所迷惑になる。それなら猫はというと、運動量の多い猫を室内で閉じこめて飼うのが可哀想だと感じる人もいる。これらのペットとは違ってウサギは基本的に鳴かないし、猫のように激しい運動を必要としない。家具を囓っていたずらする以外はとても飼いやすく、現代人にぴったりのペットだといえる。

「~にはどういう原因があるのだろうか。」「~が問題となっている。」というパターンです。これも~部分にテーマになる語を入れるだけのお手軽なパターンです。

 

 この2つ以外にも、一つ一つその段落に合わせて書くものとしては次の2つのパターンがあります。

 要約 これから述べようとする内容を要約して述べる

 ウサギには大きくわけてアナウサギノウサギの2種類がある。現在ペットとして見かけるウサギがアナウサギという種類である。アナウサギはローマ時代に家畜化され、中世ヨーロッパでは既にペットとして飼われていた。一方ノウサギは、アナウサギと同様に家畜化はされたのだが人間には懐かず、ペットとして飼うことは非常に難しい。

 

結論 文章の結論を先に述べる

 ウサギに水をやると死ぬというのは間違いである。どんな動物でも水分をとらないと生きていけないのだから当然である。ウサギを飼う場合は餌として固形のペレットと野菜などを与えるが、もし乾燥したペレットだけで野菜の水分も摂取できないとなると死んでしまうだろう。ウサギはよく下痢をする動物だが、そのまま不潔にしておくと病気になって死ぬこともある。昔の人は弱ったウサギを見て、野菜に付いた水分がだめだと勘違いしたのではないだろうか。

トピックセンテンスを生かして書くといっても、「~について説明しよう。」「次に~について説明しよう。」「最後に~について説明しよう。」という具合にすべての段落が同じパターンだと退屈な文章になりますので、上記の4パターンで変化を付けて書くのがよいと思います。 

第2回補足 事実の記述の重要性

第2回の授業で取り上げる「事実と意見」の考え方は、少しわかりにくいようです。

  1. ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であった.
  2. ジョージ・ワシントンは米国の初代の大統領であった.

『理科系の作文技術』などで木下是雄氏が引用しているアメリカの国語の教科書*1の例文をここにも挙げましょう。証拠を挙げて裏付けすることのできる2.は「事実」です。それに対して1.は誰かが下した判断であって、ほかの人はその判断に同意するかもしれないし、同意しないかもしれないので、「意見」だと考えます。

 

この考え方がわかりにくい理由として、まず「意見」という用語が、日常生活で用いる「意見」とは少し異なっていることが考えられます。1.の場合は

(私は)ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であったと考える。 

と書けば、意見ということがはっきりするでしょう。「意見」という用語には「判断」も含まれると考えると、

  1. ミナトヤのパンは高い。
  2. ミナトヤのメロンパンは150円だ。

という例について、1.が「意見」で2.が「事実」だということが納得できるのではないでしょうか。

 

もう一つ、「事実と意見」の考え方をわかりにくくしているのは、「事実」には「真の事実」と「偽の事実」があるという考え方です。 「意見」と同様に、「事実」という用語の日常での使い方に引きずられてしまうためのようです。

また、「事実」ではなく「意見」である文 と、「偽の事実」の文を混同してしまうこともあるようです。これについては、ミナトヤのメロンパンが150円であるとき、

  1. ミナトヤのパンは高い。
  2. ミナトヤのメロンパンは180円だ。  

1.が「意見」で2.が「偽の事実」であることを確認しておきましょう。

 

このようにいろいろ理由はありそうですが、「事実と意見」の考え方がわかりにくい最大の理由は、そもそもなぜこんな考え方が文章を書くために必要なのかわからないから、のようです。前回取り上げた文例では、

  1. 田中氏は激怒した。
  2. 田中氏は報道陣に怒りをぶつけた。
  3. 田中氏はげんこつでテーブルを叩きつけた。

について、(1.でいいじゃない、『走れメロス』だって「メロスは激怒した。」で始まるのに……)と思ったかもしれません。

ここで確認してほしいのは、この授業は文学作品を書くレッスンではないということです。どんなに美しくても情報を正確に伝えるのでないと、仕事で使う文章としては失格なのです。ここでは少々無骨でたどたどしくても、田中氏がどういう状態だったかを伝えることに意味があるのです。「田中氏はげんこつでテーブルを叩きつけた。」というように事実を記述する文なら、目撃者がいたり画像があったりして、本当にげんこつでテーブルを叩きつけたのかどうか確かめることができます。その結果、もしそんなことをしていなかったら「偽の事実」です。しかし「激怒した」では確かめることができません。上品な家庭に育った人は少し怒鳴られただけで激怒されたと思うかもしれませんし、私のようにワイルドに育った人は少々のことでは激怒されたと感じないかもしれません。「怒りをぶつけた」のだって同じです。怒りをぶつけられたと感じる人と感じない人がいるでしょう。

1.や2.は人によってイメージの違う表現を使っているので事実を表す文とはいえません。こういう書き方をすると、田中氏から「俺は激怒なんてしていないぞ。怒りをぶつけた覚えもない。俺としてはちょっとムカついただけだ。それをこんな風に書くとは!」と抗議が来るかもしれません。

 

このように、事実を記述する文の形になっていないと、トラブルが生じることはよくあるのです。

A「この仕事、すぐしてほしいんだけど。」

B「わかりました。すぐにやっておきます。」 

 この会話の文は事実を表していません。「すぐ」をどのようにとらえるか人によって違うからです。Aが今日中、Bが今週中ととらえていれば困ったことになりますね。Aが事実を表す文の形で

A「この仕事、今日中にしてほしいんだけど。」  

と頼むか、Bが

B「わかりました。何日までに仕上げればいいですか?」 

と事実を表す文の形で聞き返せば、トラブルは避けられます。 

 

誤解されないよう正確に情報を伝えるためには、事実を表すことを意識するのは基本中の基本であるとともに、最も重要なことなのです。

 

では、第2回の補足問題です。

 

問題1

次の文は「事実」を記述する文になっていません。「事実」を記述する文に書き換えるか、「事実」を記述する文を書き足しましょう。

  1. 自分なりにがんばりました。
  2. 次回から手洗いをしっかりするようにします。
  3. 私の公約の1つは「お年寄りに優しい町づくり」です。
  4. 弊社は徹底した効率化に取り組んでおります。
  5. 日本人は繊細な感性を持っている。

 

 問題

インターネットオークションにマグカップを出品するために次のような説明文を書きました。しかし、この文章は事実を述べているとは言い難い部分がいくつかあり、場合によっては落札者とトラブルになるおそれがあります。

事実を述べているとはいえない表現に傍線を引いて、どのようなトラブルが起きる可能性があるか考えましょう。

次に、最強のクレーマーを想定して全体を書き直しましょう。

   

  • こちらは、どらえもんのマグカップです。
  • 最近、アベノハルカスで買ったものです。
  • 新品同様! ほとんど使っていません。
  • どらえもんのイラストがかわいくて癒されます。
  • 大きめサイズでたっぷり飲めますよ。
  • 汚れなどは特にありませんが、神経質な方はご遠慮下さい。

 

 

ところでこの「事実と意見」については、『理科系の作文技術』の著者である木下是雄氏が、「事実の記述」を以下のように定義しているのが参考になります。

(略)そこで私たちは、ある記述が「事実である」という言い方は避ける。そして事実ではなくて事実の記述を次のように定義する。

(a)自然現象や、人間の関与した事件の記述で、

(b)しかるべきテストや調査によって真偽を客観的に(原文「客観的に」に傍点)たしかめることのできるものを事実の記述という。

 「言語技術教育に取り組む」(『日本語の思考法』中公文庫2009 11~41頁)

 木下氏はまた「「事実とは証拠をあげて裏づけすることのできるものである」としたのは初心者(小学生)用の定義とお考えねがいたい」と述べています。

*1:Patterns of Language,Vols.A~H,American Book Co.,New York,1974.