文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

表現面の採点基準案

レポートや試験の文章を採点する際、表現面については基準を定めるのが困難である。構成や論理の流れ、引用のマナーを守っているかどうかなどは、数人で採点してもぶれが少なく比較的問題なく進むが、表現については個人の好みが介入しやすいからだ。

私の基本的な方針は以下の通り。

  1. 2重に減点しない。例:段落分けをしていない文章については、段落分けの項目で減点し、長すぎる文という項目では減点しない。
  2. 同じ理由で複数回減点しない。例:同じ漢字を複数回書き間違えている場合、減点は1回。
  3. 迷うときは減点しない。ただし、減点しなかった基準をそのつど記録して、すべての答案がそれに当てはまるようにする。
  4. 減点理由の基準は公的なものから採る。

4について、使っている資料をまとめておく。

 

【誤字について】

平仮名や片仮名の誤字は非常に少ないのでここでは漢字の誤字について取り上げる。

まず、筆写の字体を誤って減点しないようにする。例:元号が「令和」に決定したことが発表されたとき、「令」の字体が2通りあることが話題になった。常用漢字表には筆写の楷書の字体として「マ」のように書く字体も掲載されており、どちらも正しい。

常用漢字表

https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/pdf/joyokanjihyo_20101130.pdf

「手書き文字の字形」と「印刷文字の字形」に関する指針(仮称)(案)

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/shoiinkai/iinkai_21/pdf/shiryo_3.pdf

 

また、これは意見が分かれるところであるが、異体字もできるだけ減点しない。略字・俗字と呼ばれるものも、すべて異体字として捉える。あえて異体字を書いているのではなく、誤字が偶然異体字であったというケースが多いと推測するが、基準として、『大漢和辞典』に掲載されていれば減点はしない。

 

ごく稀に旧字体で書かれているものがあるが、もちろん減点しない。ただし、旧字体新字体が混在していれば、表記の不統一という点について減点する。

 

答案は楷書で書くというのは注意書きがなくても守るべきことだと考えているが、行書や草書でも減点しない(隷書や篆書の答案を見たことはまだない)。『五體字類』や書道辞典類にない独自の崩し方で、読解不能なものは誤字とみなす。

 

【漢字使用率について】

誤字での減点を防ぐためか、仮名が目立つ文章がある。漢字使用率は3割が一番読みやすいといわれている。漢字を使いすぎて減点することはないが、あまりにも仮名が多いと減点することはある。

もし漢字使用率が低いと言うことで減点するならば、使用率が何%以下なら減点するという基準を設けなければならない。使用率は

http://akind.dee.cc/kanjiritsuchk-input.html 

で調べることができる。

個別の語について漢字で書くか仮名で書くかに関しては、常用漢字表の別紙に

公⽤⽂における漢字使⽤等について

があるが、実際の出版物では副詞は必ず平仮名で記されるなど、より多くの語が平仮名に開かれているという印象があり、

ちょっとひらがなに直すだけで、文章はこんなにプロっぽくなる | ハフポスト

が非常に参考になる。

 

もし漢字を使っていないことで減点するならば、たとえば小中学校で学ぶ漢字かどうかが判断基準になるであろう。その場合も、現在平仮名で書くことが多い副詞は減点しないなど、品詞についても基準を決める必要がある。一つ一つの漢字についていつ学ぶかは

学年別漢字配当表 

別表 学年別漢字配当表:文部科学省

でチェックできる。

 

ただ、改定常用漢字表には、「改定常用漢字表の性格」(1)基本的な性格 に

なお、情報機器の使用が一般化,日常化している現在の文字生活の実態を踏まえるならば,漢字表に掲げるすべての漢字を手書きできる必要はなく,また,それを求めるものでもない。

と記されていることからも、漢字表記でないからといって減点するのは難しいと考える。少なくとも改定常用漢字表で増えた191字に関しては、減点しないのが妥当であろう。

文化庁広報誌にも、常用漢字表について

「常用漢字表」を知っていますか。―「常用漢字表」シリーズ①― - 言葉のQ&A - 文化庁広報誌 ぶんかる

高校を卒業するまでには,2,136字の全てが読め,小中学校で書けるようになった1,006字以外の主な常用漢字も書けるようになります。

とあり、高校卒業までに小中学校で学ぶ漢字は「書ける」とするものの、常用漢字すべてについては「読め」るとしか記されていない。

 

【言葉の意味】

変化している言葉の意味や文法については、国語辞典に掲載されていないから減点するというのでは現状に合わない場合がある。このような場合は、

国語に関する世論調査 | 文化庁

を用いる。たとえば「六つの表現の認知と使用,慣用句等の意味・言い方」(平成30年度)に掲載されている語で、50%以上が使用している場合は減点しないなどといった基準を設けることが考えられる。国語に関する世論調査 | 文化庁 については

ことば食堂へようこそ! | 文化庁

という動画もある。ただ、該当する語句を探すのが大変で、索引がほしいです。もしあればぜひお知らせ下さい。

 

*ここで取り上げたサイトのほとんどは、

後期第10回 文章を書くのに便利なサイト - 文章表現の授業です

でも紹介しています。