文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

後期第9回 自己アピール文を書く その2

いまどきの大学生が一番書き方を知りたいと思っている文章は何かといえば、就職活動の際に企業へ提出するエントリーシートだということで間違いないでしょう。自己アピール文を書くというテーマの授業で取り上げてほしいという要望が最も多いのは、エントリーシートです。こういうのを書いたのだけど見てもらえませんかと学生さんが持ってくるもので一番多いのも、エントリーシートです。自分の将来に関わるのですから、エントリーシートがきちんと書けるかどうかは切実な問題です。*1

授業では次のような架空のメーカーに応募するエントリーシートを書き、人事課になりきった学生さん数人に面接に進む応募者を選んでもらいました。

菓子メーカー「みかげ」の企画部スタッフに応募するためのエントリーシート(200字)を書く。「みかげ」は従業員数50名で大きな会社とはいえないが、今年で創業60年になる地元の老舗である。「みかげ石」という固焼き煎餅は全国的に有名なヒット商品であり、地元の人たちに手土産としてよく利用されている。新商品の開発に向けて企画部のスタッフを3名募集するという採用情報をホームページに掲載している。

私は就職課の職員でも就活コンサルタントでもありませんが、学生さんのエントリーシートを見ていると、ふだんの文章表現の授業で学んでいることをそのまま生かしてくれればいいのにと思うことが多いです。

まず第1に、見た目は大事です。読み手のことを考えて、読みやすいものにしてほしいと思います。そもそも企業側は膨大な量のエントリーシートを全部読んでいるのか疑問です。読んでもらえないかもしれないと思った方がいいかもしれません。まずは、初見で読む気をなくすようなエントリーシートにならないようにしなければスタートラインに立てません。当たり前のことばかりですが、次のようなことに気を付けて下さい。

  • インターネットのフォームや指定の書式に書き込む場合、字数不足や必要以上の改行で余白が目立つものは、熱意が足りないという印象を与えるので注意。
  • パソコンを使って書類を作る場合、ポイントと字間に注意する。指定がない場合、10.5~12ポイントで、字間はできるだけゼロに近い数字にする。

この字間に無頓着な学生さんはわりと多いのです。どうしてそうなったのか今でも疑問ですが、字間が行間より広いレポートが送られてきたことが何度もありました。あれを読むのはちょっとした拷問です。エントリーシートだったら読んでもらえないでしょう。

  • あらかじめ書式が与えられている場合は罫線などを変更しないようにする。勝手に書式を変更したと受け取られることがある。
  • 手書きの場合、丁寧に見やすく書くことを心がける。文字色の濃さ、文字の大きさや配置などに気を配ろう。

次に、トピックセンテンスを効かせることも大事だと思います。応募者数が数百人数千人になると、おそらくほとんどのエントリーシートはじっくり時間をかけて読まれることはなく、流し読みされるのではないでしょうか。担当者は出だしで次のステップに進める応募者の当たりを付けていたり、出だししか読んでいなかったりする可能性があります。全部を読まなくても内容がわかるような、要約型のトピックセンテンスを作って書くとよいでしょう。数百字の文章の最後まで読んで、最後の行で「いい学生さんだなあ」と思ってもらえる、そういうタイプの文章は避けましょう。

トピックセンテンスについて忘れてしまっている場合は復習します。

第4回 トピックセンテンスを生かして書く - 文章表現の授業です

内容については、限られた字数*2ですから、わかりきっていることは省く方がいいでしょう。例えば次のような文章が全体の2割以上を占めていると、字数がもったいないと思います。

食品関係の仕事をしたいと思い、先日、就職課のパソコンで検索していたところ、貴社が社員を応募しているのを拝見しました。

こんな私ですが、入社しましたらきっとお役に立てると思います。なにとぞ私を選んでくださいますよう、お願い申し上げます。

また、なぜ他ではないそこに応募したのかわかるように書くといいと思います。その店の商品を褒めるのであれば、具体的にどこがいいのか書けば商品をよく理解していることをアピールできるでしょう。例えば、

 貴社の「みかげ石」という固焼き煎餅は全国的に有名なヒット商品で、私も地方を訪れる際に手土産として利用しております。

だと、ほとんど応募する側の情報がありませんが、

貴社の「みかげ石」は、添加物を一切使用せず良質な素材の味が生かされており、安心して手土産として利用しております。

だと、メーカーのこだわりを理解していることがわかります。

自分のことを書く場合も、具体的な例を挙げて書くように心掛けましょう。

私はお菓子が大好きでよく食べているので、新しいお菓子を考える企画の仕事に向いていると思います。

このような文章は誰にでも書けてしまいます。

私はお菓子が大好きで、大学祭では地元のお菓子を網羅した冊子を作成して配布しました。

できるだけ、自分にしか書けない具体的な例を挙げてアピールするようにしましょう。エントリーシートの書き方で、今や一つのパターンになってしまっている次のような書き方があります。

私にはリーダーシップがあります。学生時代はハンドボール部でキャプテンを務め……

これも「リーダーシップがある」具体例として、クラブのキャプテンだったということを書いているのです。

なお、応募先の情報を十分集めておき、会社名・商品名などを書く時は正確に。固有名詞の誤字などは最悪なので、サイトなどで確認して十分注意しましょう。

*1:エントリーシートなるものについてはいろいろ思うところがありますが、そうも言っていられないので粛々と授業をするのであります。

*2:たいてい200~600字の範囲に収まりそうです。