文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

更新しました! 文章を書くのに便利なサイト

学生さんが文章を書く際に、よく「こんなサイトを使えば便利」と紹介することがあるのですが、一度まとめて教えてほしいという要望があったので、お気に入りなどに入れて実際に使っているものをまとめました(最初の投稿は2015.11.29です。紹介しているサイトは何度か書き加えたり削除したりしています)。改めて集めてみると、少ないですね。「こんなの使っているよ」「あれは使わないの?」という情報をお待ちしています。

まずは、作業用・勉強用BGM youtube にたくさんあります。私はカフェの音がするのが好みです。

明らかな誤用でない限り、それぞれの表現の個性は尊重されるべきですが、より読みやすい文章を書く心がけは大切だと思います。
文化庁の資料などは、数人で1つの書類を作るときなどの基準として用いるとよいでしょう。

国語辞典の付録や編集者のための辞典なども役立ちますが、パソコンを使って文章を書く際にはこういったサイトを使うとそのままコピーできるので能率がよくなります。

書式についての考え方

文章表現の授業を担当していると、毎年必ず質問されることがあります。それは、

 横書きの場合、数字は1マスに1文字書くのか、それとも2文字書くのか?

というものです。

意外な質問でしょうか? 日常的に文章を書いている授業担当者は、このような疑問を持つことはあまりないと思います。しかし、学生さんには気になることのようです。

結論から言うと、提出先の指示に従うということになります。

提出先から書式についての指示がない場合は、担当者に質問するとよいでしょう。

 

文章は、それを読む人のために書くものです。読者が読みやすいように、読者が望む形にカスタマイズするというのが基本の考え方です。たとえ日本中の誰もが1マスに2つ数字を書いていたとしても、読者である提出先が1マスに1つと指定すれば、1マスに1つ書きます(念のために書いておきますが、指定があまりにも不合理だと思う場合、変えてもらうよう申し出るのがダメだということではありません)。

提出先の指示がなく、自由に書いてよいという場合もあります。この場合は、1マスに1つと2つのうちどちらかに決めたら、同じ文章の中で混在しないようにしてください。ちなみに、私個人は1マスに2つ派で、1桁の場合は見にくいので1つにしています。

1マスに2つというと、3桁はどうなりますかという質問が出ますが、2マスに3つの数字をバランスよく配置すればいいでしょう。パソコンを使って文章を書くときは、ソフトが自動的に配置してくれます。

 

数字の書き方以外にも、書式についての質問が来ます。横書きの場合、句読点は「、」「。」を使うのか、「,」「.」がいいのか。アルファベットも1マスに1文字か、それとも2文字か。アラビア数字を使うのか、漢字を使うのか。アラビア数字にする場合、「一人」も「1人」にするのか……などなど。

こういったことも、先に述べた数字の場合と同じ、読者が望む形にカスタマイズするというのが基本の考え方です。

 

提出先の指示がなく、質問の機会もない(本当はこういうのはよくないんですけど)場合はどうすればいいでしょうか。

閲覧する機会があれば、過去の提出物と同様に書くのがいいでしょう。例えば実習簿の場合、サンプルや先輩のものなどを見てみましょう。書式の確認以外にも勉強になりますね。

レポートの場合は、担当者の著書や論文の書式と揃えて書けば文句を言われないはずです。

 

付け足しておきますと、書式について指示をしているにもかかわらず守らない人がいます。たくさんの書類の中で書式が異なるものがあると、読むペースが乱されますし、余計な手間がかかることもあります。少なくともストレスになります。書式を守らないのは、自分は読む人にそういう負荷をかけてもいい人間なのだと言っているようなものです。指定された書式に疑問があれば質問し、必要があれば改めてもらいましょう。

 

『伝える伝わる文章表現』では、「第0課 横書きで日本語を書く」でこういった疑問に対する説明を書いています。 

独学もできるように解答例を作りましたので、夏休みの残り数日にぜひお使いください。

 

メールに「教授」と書く前に

学生さんからのメールで変だと思うことがいくつかありますが、変というより間違っているのが敬称です。とにかく大学で教えている人にはすべて「〇〇教授」と書くようなのです。

非常勤講師の私も例外ではなく、「新稲教授」という敬称のメールが届きます。そのたびに非常勤講師という一年契約の非正規雇用ではなく、教授と呼ばれるような身分になりたかったなあと遠い目になってしまうのです。

このように、職位というのはデリケートなものです。教授と呼んでおけばみんな喜ぶといったものではありません。私の知っているケースで、こだわりがあって敢えて教授に昇進することを拒んで准教授に留まっている人がいます。間違ってしまうとその場の空気が凍ることもありますから、非常に気を遣います。

ではどうすればいいのか。簡単です。敬称はすべて「先生」にすればいいのです。

 

そもそも肩書きは敬称になるのでしょうか? 教授なのか准教授なのか講師なのか助教なのか、確認してからメールの書き出しに

新稲非常勤講師

と書くのでしょうか。私がすべての授業の契約を打ち切られたときは、

新稲ゆうメイト(日本郵便期間雇用社員)

になるのでしょうか。人によって感覚が違うかと思いますが、私の感覚では肩書きは敬称にならないと思います。

 

「先生」という便利な敬称があるのに、なぜ職位を間違う危険を冒してまで「〇〇教授」と書くのか謎だったのですが、検索してみると引っかかってくるサイトの例文がことごとく「〇〇教授」なので、それを見て書いているのでしょう。参考にするなとは言いませんが、ちょっと自分の頭で考えてみてください。

 

声を大にして言いたい。敬称はすべて「先生」にすればいいです!

 

 

メールの書き方も取りあげています。

 

単位修得にまつわるメールのこと

大学は試験期間、学生さんとメールのやりとりをする機会が増える時期です。

メールの書き方については、このブログでも遅れた課題を受け取ってほしいという設定で取りあげたことがあります。

メールの書き方2 具体例 - 文章表現の授業です

この本にも載せました。

単位に関わるメールなど書かないで済むにこしたことはないですが、発熱してしまって試験を受けたりレポートを提出しに登校したりできなくなったとか、なんとかならないか問い合わせたくなりますよね。

こういった新型コロナウイルス関連の事情については、授業の担当者ではなく、大学で新型コロナウイルス関連の係があるはずですから、そこに問い合わせましょう。

ふだんの提出物などの評価については、担当の先生の裁量に任されていると思いますから、未提出のものがあるのなら、相談してみるのもいいかもしれません。

しかし、出席日数が足りなくて資格喪失になっているとか、点数がどうしても合格に届かないのがわかっているような場合は、潔く諦めてもう一度勉強しましょう。

よく年配の人が、一昔前は教授のお宅に一升瓶を持ってお願いに行ったものだなどという昔話をしますが、いまどきそういうお願いを聞き入れて単位を出すと処分されます。

そもそも、いったん成績を入力してしまうと大学が管理していますから、授業の担当者が変更するのは簡単ではありません。特に非常勤講師には、提出した成績のデータを大学内部のどこで誰が管理しているのかまったくわかりません。

メールを書く時間があるのなら、その時間を来年度単位を取るための勉強に当てましょう。

ただ、何らかのミスで間違った成績が記録されてしまったということはないとはいえないので、納得いかないときは問い合わせるとよいでしょう。その場合も、担当者が勝手に点数を書き換えることはできないので、大学の異議申し立ての制度を利用しましょう。

ちなみに、私の授業ではルーブリックまたは採点基準を公開して、点数の根拠がわかるようにしています。GoogleClassroomを採用している大学では、ふだんの提出物や小テストの点数もすべて見えるようにしています。

事実と意見の区別に関する本や動画 その2

この記事の続きです。

事実と意見についてシンプルな文で基礎を確認したいときは、前回紹介したNHKのサイト以外に fact or opinion で検索すると英語圏の子供向きのサイトがたくさん出てきます。こんな感じです。

www.google.com

ブルーバックスから追加です。理系向きの本として出版されていますが、論理的な文章を書く人には文系理系は関係ありません。

成清弘和『理系のための 理論が伝わる文章術 実例で学ぶ読解・作成の手順』、第1章に「事実と意見」について詳しく説明しています。

著者のいうところの「文章の読み取り法」について力を入れているため、国語の入試の長文問題の解説のようになっていて、自分で取り組みながら読む必要があります。歯ごたえがあるといいますか、慣れない人には怠いのかもしれないですが、じっくり勉強するのにいい本だと思います。Amazonのレビューが低評価で気の毒。それでこの本を手にしないのはもったいないです。

 

もう1冊、ブルーバックスの文章技術の本に更科功『理系の文章術 今日から役立つ科学ライティング』があります。

事実と意見の区別については、こちらはおそらく理解していて当然という前提で、その先の内容が書かれています。クリエーショニスト・ステッカーの「進化は理論(theory)であって、事実(fact)ではない」の話題など、おもしろいです。  

学園祭に出店するための企画書

野田尚史・森口稔『日本語を書くトレーニング』は文章表現の授業の定番テキストです。今まで複数の非常勤先でこのテキストが教科書や参考文献に指定されていました。このテキストの特徴は、なんといっても時代に合ったトピックだと思います(拙著の練習問題・課題の作り方もこのテキストの影響を受けています)。私は初版から使用していますが、古く感じていたトピックも第2版では時代に合ったものに変更されています。版の分からない古本をアプリなどで購入するのではなく、新刊を購入するのをオススメします。

さて、この本にはトレーニング9「企画や提案を出す」に「学園祭での韓国風お好み焼き屋の企画書」という、いまどきのトピックが取りあげられています。

学園祭では大学から補助金が出ることが多いものですが、補助金を受け取るにはそのための書類を書かなければなりません。与えられたフォームに必要事項を書き込むだけの簡単なところもありますが、企画書と呼べる書類を要求されるところでは、どう書いたらいいのか相談されることがあります。今年度は学園祭が復活することを願って、学園祭にサークルで屋台を出店するための企画書の書き方について、気の付いたところを書いておきます。

 

まず書式について。企画書の書き方については、テンプレートが充実していて、ネット上にも無料のものがたくさんあります。たいてい、

  1. 現状分析
  2. 目的・目標
  3. 内容
  4. 予算
  5. スケジュール

というものです。もう少し詳しくなるとこんな感じ。

    1.現状分析
    2.企画の概要
    3.内容

       3-1.ターゲット
       3-2.コンセプト
       3-3.売り上げ目標
    4.予算
 5.スケジュール

 レイアウトはこういったものを参考にするとよいでしょう。慣れないうちはそのまま使っても悪くないですが、使いやすいものは当然使う人が多いので、みんなと一緒になりがちです。慣れてきたら、アレンジしたり、自分で一から作ってみるのもいいですね。

ちなみに私は授業ではGoogleスプレッドシートのテンプレートを使って説明しました。

www.google.com

こういったテンプレートのほとんどは、ビジネスの企画書を念頭に置いて作られていますが、内容については、ビジネスの企画書と、学園祭の企画書では大きく異なるところがあります。ビジネスの企画書では何よりも利益が出るということを重視しますが、学園祭の企画書では必ずしもそうではないという点です。大学は、屋台が収益を上げることではなく、その企画を通じて学生が何かを学んで成長すること、つまり(企画書をきちんと書けるようになってほしいというのもそれに含まれますが)、企画を立てて実行するという経験をして成長することを期待しているのだと思います。

ですから、ビジネスの企画書では利益を出すということが第1の目的になりますが、学園祭の企画書で「昨年度まではこういう理由で売り上げが伸びなかった! そこで私たちはこういう企画で売り上げを伸ばして利益を上げたい!」と書くのはあまり求められてなさそうです。補助金の概要をよく読んで、何を求められているのかを理解し、反映させて書きましょう。たとえばこんなのはどうでしょうか。

  • 学園祭を盛り上げたい。
  • 話題になって、もっとこの大学を知ってほしい。
  • 近隣住民に楽しんでもらい、大学に親しみを持ってほしい。
  • 高校生に楽しんでもらい、私たちの後輩になりたいという気持ちになってほしい。

このように、まずは目的をはっきりさせましょう。それによって、どのような人たちをターゲットに販売するのかもはっきりしてきます。

 

次に、どのような屋台にするのかを書きます。重要なことは、こんな屋台を出したいなという夢物語ではなく、実行可能な内容を書くことです。そのためには、できるだけ具体的に書く必要があります。

例えば屋台で出す料理については次のようなことを書くといいでしょう。

  • 商品のイメージ写真やイラスト
  • 作り方
  • 作るために必要な道具、機材。どこで調達するか。レンタルか。
  • 材料。どのくらいの量か。どこで購入するか。

屋台その物のしつらえについてもできるだけ具体的に書きましょう。

  • 屋台のイメージイラスト。
  • どのように用意するか。設置はどうするか。
  • 飾り付けはどうするか。
  • 音楽を流すなら機材はどうするか。曲名。
  • 大学構内のどこに設置するか。地図。

その他にも、

  • 広告のチラシのサンプル。何枚作るか、どこで配布するか。
  • スタッフのお揃いのTシャツを作る。デザインサンプル。

など、具体的にイメージできるように書いてください。

 

具体的にどのような屋台にするのかが決まったら、実現可能であることをアピールします。

  • 予算。材料費やレンタルの費用など、できるだけ詳しく。
  • 売り上げ目標。今まで出店したことがあれば、それを元に予想する。

企業ではないから利益を上げるのが第一の目標ではないとはいえ、赤字になるのは避けたいです。お金関係は予算を立てて、誰が責任を持って管理するのかもはっきりさせておきましょう。

  • 学園祭当日までのスケジュール
  • 参加する人たちの名簿、それぞれの担当する役割。

とにかく具体的に、補助金さえ出せばこのサークルはもう明日にでも出店できるな……と思わせるほど具体的に書きましょう。

 

それと同時に、心配の種がないようにしましょう。学園祭で食べ物の屋台を出す場合、心配になるのは食中毒です。アレルギーについても気を配る必要がありますね。また、火の元についてや、消毒など感染対策がきちんとされているかも気になります。

  • 「180度で3分焼く」など、高温で調理する作り方を詳しく書くことで、食中毒の心配がないことをアピール。
  • チラシに原材料を公開、アレルギーマークのプレートを表示するなどアレルギー対策。
  • アルコール消毒のスプレーを設置。テーブルはお客さん毎に消毒。
  • 火の元は調理担当者だけでなく複数のスタッフで確認する。

このサークルなら安心して任せられると思ってもらえるように、不安材料を潰していきましょう。

 

……と、こんな感じでしょうか。分量はA4で1~2枚のところが多いようです。今年の秋は学園祭が復活して、おいしい屋台を出せますように!

『伝える伝わる文章表現』各課題のテーマについて

『伝える伝わる文章表現』、明日4月1日の刊行ですが、テキストに採用していただいたところもあるようです。ありがとうございます!

masudanoriko.hatenablog.com

文章表現の授業で取りあげる題材については、あくまで書く練習のためにあるので、表面的な理解にとどまっても課題さえクリアできればいいと言えばいいのですが、ちょっともったいない気がします。課題として誰にでも書きやすいものであると同時に、学生さんの世界を広げ、問題意識を持つきっかけになるものが理想だと思っています。

『伝える伝わる文章表現』は、課題を書く時間を含めて1課が90分授業1コマを想定していますが、時間に余裕がありそうなクラスでは、ぜひ題材の内容についても詳しく取り上げてください。巻末に参考文献として記したもの以外に、話のネタ、私が授業に持っていった本や動画、学生さんが見つけてくれた本や論文を記しておきます。

  • 基礎編第1課 絵葉書やイラストの作者や内容の解説。
  • 基礎編第2課 クレーマーに関する体験談。メルカリやヤフオクでトラブルになっている例を探して分析。
  • 基礎編第3課 じゃんけんの歴史。

  • 基礎編第4課 ファストフードに関する問題。高校の授業でスーパサイズ・ミーを観たという学生さんもいました。

  • 基礎編第5課 心理学の授業で血液型と性格の関係について取りあげることがよくあるようで、学生さんたちはかなり専門的な資料を紹介してくれます。下記の論文はネットで読めます。

www.jstage.jst.go.jp

  • 基礎編第6課 救急車の適切な利用は医療系の専門学校の学生さんにとっては大きなテーマで、みんな真剣です。

  • 基礎編第7課 この回は毎回、時間内ギリギリです……
  • 応用編第1課 日本語におけるローマ字の歴史。ポルトガル語式ローマ字、オランダ語式ローマ字、訓令式ローマ字の画像資料。石川啄木『ローマ字日記』(居眠りしている学生も必ず起きます。)

    takubokudiary.higoyomi.com

  • 応用編第2課 日本における子育て。子供食堂
  • 応用編第3課 この回もあまり時間に余裕がないです……
  • 応用編第4課 高校野球にまつわる問題。スポーツと商業主義。
  • 応用編第5課 「やさしい日本語」について。留学生に話を聞く。

www4414uj.sakura.ne.jp

  • 応用編第6課 エントリーシートをピアレビュー、自分が採用する側だったらどれにするかを選んで、どこがよく書けているかを考える。
  • 応用編第7課 入れ墨の歴史。

 『伝える伝わる文章表現』、テキストとして使った感想をぜひお寄せください!