文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

「型」に従って書くことについて

 

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実際に使ったシート。

夏の甲子園ナイトゲームにするべきだ」という意見について、賛成・反対両方の文章を書きました。この写真は賛成バージョンです。

意見文や報告文などには、よく使われる型があります。意見文をどうしても書けないという学生さんのために、その型を用いて穴埋めシートを作ったことがあります。「意見文の書き方」に記したアウトラインを元にしました。

文章を書けないのは、自分の考えていることを表現する回路ができていないからだと思います。書ける人は、これまでにお手本となる文章をたくさん読んでいて、その回路ができあがっています。しかし読書経験があまりなかったり、読んでいても(自分の考えていることを上手く伝えるには、このように書けばいいのか……)などと意識することがなかったりすれば、この回路ができません。

文章表現を磨くためには読書が一番というのは、だいたい正しいと思いますが、例えば数ヶ月後にレポートを提出しないといけない大学1年生にそういうアドバイスをしても絶望されるだけです。

そこで、型を用意して埋めて書く練習をしてもらうわけです。

この練習は、書けない学生さんには好評なのですが、書ける学生さんにはいまひとつです。書ける学生さんはこういった型にはめられるのを嫌がる傾向があるからです。

しかし、型を使って書く練習は、文章に自信のある学生さんにも必要だと思います。これまでの読書を通じて自然にできた回路が、個性的すぎてふつうの読者にはわかりにくいところがあるかもしれません。一見つまらない、ふつうの型を使うことによって、粗削りの型を修正することができます。

論文などにはその分野の型があって、それに従わないと不利になりますし、文章を書く仕事でも、このように書いてほしいという型の指定があります。好きなように文章を書く機会は他に作れるのですから、指定される型に素直に自分を委ねてみるのも、わかりやすい文章を書くためには大切な練習だと思います。

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文章を長くする

 長い文章を書くとき、皆さんはどうしているでしょうか。いきなり書き始める、書きながら考えるという人もいますが、ここではアウトラインを作って書く方法を紹介します。
「アウトライン」という言葉はいろいろな分野で使われていますが、文章を書く際には、文章の構造、骨格のことをいいます。例えば、意見文のアウトライン を簡単に作ってみると、以下のようになります。

  1 話題(事実を表す文の形で書く)
  2 1に関する自分の意見
  3 2の理由
  4 予想される反論と、それに対する反論

「夏に行われるいわゆる高校野球ナイトゲームにするべきだ」という意見文を、このアウトラインを使って書いてみましょう。

 毎年8月の猛暑の中、阪神甲子園球場全国高等学校野球選手権大会が開催されている。
 私はこのいわゆる高校野球ナイトゲームにするべきだと思う。
 なぜなら、この暑さの中で野球をすると熱中症になる危険性があるからだ。
 夏の日差しの元、汗を流して一心にボールを追う姿こそ高校野球の醍醐味だと言われるが、最近の暑さはそのようなことを言っていられるものではない。生徒を熱中症から守るために、高校野球ナイトゲームにするべきだ。

これでほぼ200字(204字)になりました。

 さて、このテーマでレポートを書く課題が出たとします。先ほど、何も調べずに意見文を書くと200字程度になることがわかりました。これでは要求された字数にまったく届きませんので、アウトラインを見直します。
 先ほどの1~4のアウトラインを元に増やしていきますが、

  1 話題
  2 1に関する自分の意見
  3 2の理由
  4 予想される反論と、それに対する反論
  5
  6…

と増やすのではなく、1~4を下記のように枝分かれさせます。

  1 話題 高校野球とは
  2 意見
  3 理由
    3-1 理由
    3-2 理由を裏付ける引用
  4 反論に反論
    4-1 反論
    4-2 4―1に反論

 このアウトラインを使って、先ほどの200字の文章を書き直してみましょう。

 毎年8月の猛暑の中、阪神甲子園球場全国高等学校野球選手権大会が開催されている。各都道府県から選ばれた合計49校が、トーナメント方式で競い合うこの大会は「夏の甲子園」と呼ばれ、テレビやラジオで放送される夏の風物詩になっている。
 私はこの夏の甲子園大会はナイトゲームにするべきだと思う。
 なぜなら、この暑さの中で野球をすると熱中症になる危険性があるからだ。実際に熱中症になった例がある。2015年8月9日「スポニチアネックス」の記事(酷暑の甲子園 選手はけいれん、観客は熱中症 次々救護室へ)によると、津商(三重)の坂倉誠人投手、創成館(長崎)の中島崇二塁手熱中症で交代している。涼しい夕方からゲームを開始すれば、このようなことは起きないだろう。
 選手はずっとマウンドにいるわけではないし、ベンチにいる時間を有効に使って水分補給を適切に行うなど、熱中症対策をすればよいと思われるかもしれない。
 しかし、甲子園にいるのは選手だけではない。観客もまた、屋根のない座席で熱中症の危険にさらされているのである。前述の記事にも「熱中症や日射病で救護室に行った観客は8日に61人、9日に42人になった。一時は部屋に入りきらない状況になったという」とある。観客の中には選手を応援しようとやって来た祖父母や幼児もいることだろう。
 生徒だけでなく、観客も熱中症から守り、より素晴らしい大会にするために、高校野球ナイトゲームにするべきだ。

これでほぼ600字(603字)になりました。
 600字程度になると、自分の言葉で書いた部分以外に引用を1つ入れることができます。ここでは新聞記事を引用しましたが、自分の意見の説得力を強めるための引用を入れるとよいでしょう。
 さらに長い文章、例えば800字程度にするときは、下記のように3の理由を増やすとよいでしょう。

  1 話題 高校野球とは
  2 意見
  3 理由
    3-1 理由その1
    3-2 理由を裏付ける引用
    3-3 理由その2
    3-4 理由を裏付ける引用
  4 反論に反論
    4-1 反論
    4-2 4―1に反論

 またさらに長い文章、例えば1000字程度にするときは、下記のように4反論に反論を増やすとよいでしょう。

  1 話題 高校野球とは
  2 意見
  3 理由
    3-1 理由その1
    3-2 理由を裏付ける引用
    3-3 理由その2
    3-4 理由を裏付ける引用
  4 反論に反論
    4-1 反論その1
    4-2 4―1に反論
    4-3 反論その2
    4-4 4―1に反論

 より長く、例えば1200字程度にするのなら、1も詳しく書けます。

  1 話題
    1-1 高校野球とは
    1-2 高校野球の歴史と夏の気温
  2 意見
  3 理由
    3-1 理由その1
    3-2 理由を裏付ける引用
    3-3 理由その2
    3-4 理由を裏付ける引用
  4 反論に反論
    4-1 反論その1
    4-2 4―1に反論
    4-3 反論その2
    4-4 4―1に反論

 このように、字数を増やす場合は単に長く続けるのではなく、アウトラインをどうするか考えて、必要な部分でバランスよく増やすようにしましょう。

メールの書き方2 具体例

 

前回に続いて、よくあるメールを例に挙げ、具体的にどのように書けばいいのかを考えましょう。

Title 生物学入門Ⅰ

 

三好先生

学籍番号1573-916の浅倉です。授業中、Wifiの調子が悪くて課題が出せませんでした。よろしくお願いします。

メールに限らずすべての文章をわかりやすく書くには、それを読む人の立場を想像してみるといいと思います。ここではこの三好先生の立場を想像してみます。

  • 今日もたくさんメールが届くなあ。(数十通の件名を見て)「生物学入門Ⅰ」?何だろう、単に科目名だけだし、急ぐ用件ではなさそうだな。こっちは「明日8日の授業内発表について」か、これはすぐ返事を書かないと。
  • ゼイゼイ やっとメールの返信が終わりそうだ……「生物学入門Ⅰ」ね、浅倉さんってどの浅倉さんだろう? どこの大学かな、学籍番号っていうからカルチャーセンターの生徒さんではないみたいだけど。
  • 「生物学入門」の受講生か。この課目は4クラスあるんだよな。(全部で100人くらいの名簿を見て)「うう……ずっとモニター見てるから目がしょぼしょぼする、〇曜日〇限の生物学入門Ⅰを受講しています」と書いてくれたら、すぐに対応できるのになあ。
  • Wifiの調子が悪い」ってどんな風に調子が悪かったんだろう? ずっと途切れがちだったのかな、聞けてたところはあるのかな? 後半で課題のやり方の説明をしたけど、それは聞けたのかな?
  • 「よろしくお願いします」って言われても……。どうしたいんだろう?
  • 課題を今からでも出そうと思ってるのかな? そうだとしたら、どのくらいできてるんだろう? いつ出せるのかな?
  • 今からでも出せますよって返信して、どのくらいできてるのか、いつ出せるかを聞かないと……。LINEのやりとりでないんだから、1通で済むようにしてほしいなあ。

いまどきの遠隔授業に対応している講師はだいたいこういう状況にあると思いますので、メールは次のように書いてもらうと非常に有り難いです。

Title 7月15日生物学入門Ⅰの課題について

 

三好先生

 

長岡大学1年の浅倉景です。水曜日1限の生物学入門Ⅰを受講しています。

 

今日(7月15日)の授業中、Wifiの調子が悪くて課題が出せませんでした。9時半くらいから安定しなくなり、何度もZoomの入退室を繰り返していました。みんなが課題をしていたときも何をすればいいかわからないので、チャットで尋ねようとしたのですが、途切れてしまいうまくできませんでした。

 

今からでも課題を提出することは可能でしょうか。また、提出できる場合、遅延扱いになるでしょうか。

 

今日のテキストはダウンロードしてあったので、授業中に読んで内容はだいたい理解しました。今日の午後は授業がありますが、夜には課題に取り組むことができるので、明日までには提出できると思います。

 

お忙しいところお手数おかけしますが、よろしくお願いします。

―――――――――――
浅倉 景 ASAKURA Kei
1533@nagaoka-u.ac.jp
090 0924 0820
―――――――――――

このように書いてもらうと、以下の点で有り難いです。

  • 段落分けしているので目に優しい。

  • 「今日(7月15日)の授業中、Wifiの調子が悪くて課題が出せませんでした」「今からでも課題を提出することは可能でしょうか」という段落冒頭のトピックセンテンス、「明日までには提出できると思います」という段落最後の文で流し読みしても内容がわかる。

  • 「今日」ではなく「今日(7月15日)」とあるので、日付が変わってもいつのことかわかる。

  • タイトルを見ただけで内容がわかり、返信の優先順位を決められる。

  • 誰からのメールかわかり、すぐに対応できる。

  • Wifiの調子が悪くて課題が出せませんでした」をトピックセンテンスに、どう調子が悪かったのかを具体的に説明している。そのため、授業内容のどの部分を伝えないといけないかがわかる。

  • 「今からでも課題を提出することは可能でしょうか」という要望がすぐわかる。

  • 課題の進み具合の状況、いつまで待てばいいのかわかる。

最後の「お忙しいところお手数おかけしますが、よろしくお願いします」はメールの決まり文句です。

 

署名に個人情報をどこまで書くのかは慎重になるべきですが、ここでは漢字とローマ字表記の名前・メールアドレス・携帯番号にしました。ローマ字表記は振り仮名の役割も果たしています。めったにないと思いますが、極めて緊急の場合なら、携帯番号もあれば安心です。

 

メールの書き方については本やサイトがたくさんあり、多くの大学では、学生さんから教員に向けたメールの書き方について説明したサイトがありますので、大学生の皆さんは、まずはそれを参照しましょう。

ただ、それらは主に専任の教員を対象に考えて作られているように思います。非常勤講師の場合は複数の大学に出講している場合も多いので、大学名を書いてもらえると大変有り難いし、早く対応できます。学生さんに、メールを送る講師が非常勤かもしれないから気を遣って書けというのは申し訳ないのですが、社会人になってさまざまな人とメールをやりとりする練習だと思ってもらえれば幸いです。

 

メールの書き方についても取り上げています。

メールの書き方1 考え方

なぜわざわざメールの書き方を学ぶのか

大学の文章表現の授業でメールの書き方を取り上げると言うと、わざわざ教えるようなものではないだろうという反応が返ってくるのですが、そういう人は今の若い人の状況を知らないのだと思います。ついこの前まで高校生だった新1年生に尋ねますと、メールを日常的に書く学生は、ほぼいないのがわかるでしょう。

私がここ数年、毎年複数の非常勤先で尋ね続けた範囲では、今の若い人は友人同士でメールのやりとりをすることはほぼないようです。「メール、使ってます」と答えた学生に、どういうときに書くのか尋ねてみると、LINEを使っていない祖父とのやりとりにということでした。その他、若い人たちが接するメールと言えば、ネットショップで買い物をしたあと届くようになった広告のメール、ファンクラブやサークルのメーリングリスト、というあたりがせいぜいです。スマホのメールを使ったことがないという学生さんも珍しくはありません。

大学では各科目の担当講師とのやりとり、ゼミの先生とのやりとり、就職活動……とメールを使うことがよくあります。特に遠隔授業が行われている今年はメールが書けるというのは必須のスキルです。新1年生対象にメールの書き方を教えるのはごく当然のことなのです。

メールの書き方に唯一の正解はない

メールの書き方が悩ましいのは、それがやりとりされる場や個人によって、かなり幅があるからです。要件だけの素っ気ないメールをやりとりする研究室や、ほとんど手紙ではないかという丁寧さのメールをやりとりする業界があります。こう書くと間違いないという唯一の型はありません。

手紙なら、長い伝統に支えられた型があります。江戸時代、寺子屋では必ず手紙の書き方を学びました。手紙の書き方の本で古いものは平安時代にまで遡るそうです。手紙の場合、こういった時代の波に洗われた型に自分の要件を当てはめて書いていけば、なんとか形になります。しかし、メールの型はそこまでしっかりしたものではありません。

メールの書き方についての考え方1 早さ

こう書けばいいという唯一の型がないメールですが、どんな業界や分野や個人にも共通する点はあるはずです。その一つは、早さではないでしょうか。

いくら早くても翌日に届く手紙は、ゆっくりと流れる時間を楽しむコミュニケーションです。送る相手を想って便箋や切手を選ぶ楽しみもあるでしょう。それに対してメールは一瞬で届きます。このスピードが、手紙とメールの違いでしょう。

とすれば、メールの書き方の方針として、拝啓・敬具といった頭語・結語や、季節の挨拶などはなくてもよさそうです。

メールの書き方についての考え方2 1通でわかる

LINEなどのチャット型のアプリは、一言ずつのやりとりが基本です。メールも同様の使い方をすることができますが、すべてのやりとりが一覧で表示されるわけではないので、使いづらいです。
したがって、メールは1通でほとんどのことがわかるように書くのがよさそうです。

 

次回は以上の2つの考え方を元に、メールの書き方の実例を挙げて説明していきましょう。

 

これもメール関係。

masudanoriko.hatenablog.com

 

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説明書き・注意書きの位置

説明書きや注意書きは、何を書いているのかと同じくらい、どこに書いてあるかがわかりやすさを左右すると思います。

 

数年前、セブンカフェのデザインがわかりにくいということが話題になりました。デザインがあまりにもスタイリッシュすぎて、店員に問い合わせが殺到、英語表記しかなかったマシンに日本語のテプラが貼りまくられたというのです。

 

www.google.com

しかし私は、このマシンよりも、そもそものカップの買い方や料金の支払い方がわからず戸惑いました。それについて書かれたパネルは、私が利用した店では頭上に吊ってあったのです。

 

頭上ではなく足元の表示も見落としやすいものではないかと思います。駅のホームでは床に特急などの電車の種類や女性専用車両のドアの位置を表示しています。自分から乗車位置を探す場合は足元を見ますが、そうでないときは足元はあまり見ていません。男性が気づかずに女性専用車両に乗ってしまうことがあります。女性専用車両に乗ろうと思っている女性なら足元のサインを探しますが、男性はそういうことはないからでしょう。

 

よく行く場所に分別がわかりにくいゴミ箱がありました。「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」とゴミ箱の胴の部分に書いてあるのですが、小さいのでかがまないと見えません。そのためか、分別を間違ったゴミが入っていることがよくありました。最近、それぞれのゴミ箱の上方に「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」の貼り紙がされていて、わかりやすくなりました。

 

せっかくわかりやすく書かれた説明書きや注意書きも、その存在に気づいてもらわなかったら意味がありません。説明書き・注意書きはどこに貼るのか、その位置も重要です。

 

 

ブルーバックスのロングセラー藤沢晃治『「分かりやすい表現』の技術』にはわかりにくい標識や看板とその改善案が載っていて参考になります。新版が出ていました。

 

横書きで注意すること

 大学でレポートを書くとき、仕事の書類を作成するとき、横書きにすることがほとんどです。メールやブログも一般的には横書きで表示されています。

 しかし、高校までの作文では縦書きで書くことが多いようです。そのため、入学して間もない大学生は横書きで文章を書くのに慣れていません。慣れていないのにも関わらず、日本語を横書きで書くための決まりについて取りあげている文章表現の本はあまりありません。縦の物を横にするだけの簡単な作業だと思われているのでしょうか。

 

 日本語を横書きで書くときに問題となるのは句読点、カギ括弧、数字です。

 横書きに書かれた日本語の句読点については、英語のコンマとピリオド( , .)、英語のコンマと縦書きの読点( ,  。)、縦書きの句読点( 、。)の3通りが見られます。どの組み合わせを使うべきか、国による書類では、文部省教科書局調査課国語調査室『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕案』(昭和21年)、『国語の書き表わし方』の付録『横書きの場合の書き方』(昭和25年)など、すべてピリオドと句点の組み合わせ( ,。)になっています。

 読点の代わりにコンマを使ったら、横書きであっても日本語だから読点を使うべきだと注意された話を聞いたことがありますが、国としてはコンマと句点の組み合わせを使うのを規範としているわけです。

 では、横書きでは3通りのどの組み合わせの句読点を使えばいいのでしょうか。個人的な書き物ではもちろん好きにすればいいと思いますが、人に読んでもらうもの、例えば大学のレポートは、理系はコンマとピリオドを使うことが多いなど、その分野の習慣に従えばよいでしょう。

 括弧については、日本語の句読点をそのまま使う場合は括弧もそのまま(「」『』)、コンマとピリオドを使う場合は英語の引用符( “ ” )を使えばいいでしょう。

 次に数字についてですが、横書きでは基本的に算用数字(アラビア数字)を使いましょう。パソコンを使って書く場合、そのままだと半角設定(1マスに2文字)になっていることがほとんどです。桁数が多いと全角(1マスに1文字)だと間延びして見えますが、これも読んでもらう人や提出先に合わせるとよいでしょう。

 ただ、決まった言いまわしに出てくる数字は漢数字にします。

患者さんと二人三脚で頑張ります。

この段階ではプロジェクトは五里霧中だった。

こういった場合、「2人3脚」「5里霧中」と書くと、まるで「3人4脚」や「10里霧中」があるかのようで、おかしいことになります。算用数字で書き表すとデータとしてとらえてしまうからでしょう。

 算用数字で書くか、漢数字で書くかが微妙な場合もあります。

第二次世界大戦 第2次世界大戦

一人で暮らしている 1人で暮らしている

 「第二次世界大戦」のような歴史的な出来事は漢数字で書くことが多いようです。算用数字で書くと「第n次世界大戦」、つまり「第3次世界大戦」「第10次世界大戦」……があるかのような印象を与えてしまいます。

 「一人」はデータとしての1、つまり2や10に置き換わる可能性がある文脈では算用数字の1が適しているでしょう。

 こうした意味のある書き分け以外では、算用数字に統一して、1つの文章の中に漢数字と算用数字が混在するのを避けるようにしましょう。

 

【参考

横書き句読点の謎 渡部 善隆

http://ri2t.kyushu-u.ac.jp/~watanabe/RESERCH/MANUSCRIPT/OTHERS/YOKO/ten.pdf

 

尾名池誠『横書き登場―日本語表記の近代』岩波新書岩波書店、2003

 

 

自己紹介を作る

 新年度が始まって自己紹介をする機会も多いことと思います。文章表現の課題でも自己紹介はよく取りあげられます。自己紹介の文章を書くことは、プロフィールや自己アピール文を書くウォーミングアップにもなります。

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 どのような自己紹介がいいのかというと、正しい一つの答があるわけではありません。自己紹介をする場によって、ふさわしいものは違ってくるからです。あまり自分のことは話さず控えめにしている方がいいこともあるし、相手との距離を一気に縮めに行くのがいいこともあります。すべての文章に共通することですが、聞く人・読む人の立場になって、何が求められているかを判断しなければならないのが、難しいところです。

 しかし、どんな場面でも、自己紹介に必ず必要なものというのは共通しています。自己紹介を何のためにするのかというと、大きく2つの理由があると考えられます。

  1. 自分の情報を相手に伝えるため
  2. 相手とこれから人間関係を築いていくため

 1.で最も重要なのは名前でしょう。どんなにうまい自己紹介でも、名前を覚えてもらえなかったら意味がありません。名前こそ、自己紹介に最も必要な情報です。フルネームでしっかり伝えましょう。口頭で自己紹介するときは、少し話すスピードを落として聞き取ってもらいやすくしましょう。

 確実に名前を覚えてもらうために、間違えやすい漢字や読みにくい名前は説明しておきましょう。また、外国にルーツのある名前の場合、何と呼んでほしいかも指定しておきましょう。日本語で発音しやすいか、おかしな意味の言葉に聞こえてしまわないかをあらかじめチェックしておくのは、トラブルを避けるためにも必要なことと思われます。

 2.では、自分についての情報をとりあげますが、その場にふさわしく、相手が自分と繋がるきっかけになるような情報にしましょう。自分という人間を構成しているさまざまな要素を書き出してみて、自己紹介に最適なものを選んでください(自己紹介は自分を見つめ直す作業でもあります)。

 例えば、旅先の広島で出会った人に自己紹介するときに、「熱烈な阪神ファンです」と言うのはちょっとリスクがありそうですし(広島カープの本拠地ですから……)、年配の方たちに自己紹介するとき、いま夢中だったとしても話題を最新のゲームにすると、話しかけてもらえるきっかけが少なくなってしまいそうです。改まった場からカジュアルな場まで、何通りかの自己紹介ができるようにしておくといいですね。

 この自分の情報をどの程度伝えるかですが、字数が決まっている場合、目一杯使うことで熱意を表現できます。また、最近はバラバラの情報をたくさん伝えるより、1つのことで印象づける傾向があります。例えば「堺出身です。高校は陸上部でした。今もマラソンしてます」よりは、「堺出身です。高校は陸上部で、マラソンが好きです。休みの日は仁徳天皇陵の周りをよく走っています」などと、ひとかたまりのイメージにすると「あの堺の人か……」と覚えてもらいやすいです。

 自己紹介で自分の情報の中で最も重要な名前、そして仲良くなるきっかけとなる情報を少なくとも1つ伝えたら、これからのよい人間関係のために、「よろしくね」などと、最後は挨拶で締めくくるといいですね。