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文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

わかりにくい文章のサンプルを集める その2

わかりにくい文章のせいでトラブルになっているサンプルの宝庫がネットショッピングです。ヤフオクなどで個人が出品している商品の説明だけでなく、チェックをしているであろうショップの説明文にもわかりにくいものが溢れています。

中には、大きさや重さを正確に表示していても、

  • 思ったより小さくて物が入りませんでした。   [ポーチ]
  • 重いです。荷物を入れると持てたもんではありません。 [バッグ]

などと低い評価を付けられている気の毒なものもあります。こういった“いちゃもん”をつけているとしか言えない客に当たってしまうのは事故のようなものかもしれません。しかし、ちょっとしたことでトラブルを防げる場合もまた多いのです。

そのちょっとしたこととは、第2回で学んだ事実を表す文の形で書くことです。

たとえば、

  • すぐに発送します。

ではなく

  • 本日付で発送します。

と具体的に書くのでしたね(第2回 事実を記述する - 文章表現の授業です)。「すぐに」という言葉ではどの程度急いでいるのか人によってイメージは違いますので、誤解されないような表現を使います。衣類によくある、

  1. ゆったりしたジャケットです。/タイトなシルエットです。
  2. 柔らかい肌触りです。/しっかりした生地でできています。

といった表現も、それだけではなく具体的な説明が必須です。

1の場合、体型は人それぞれなので、ゆったりしていない/タイトではないと感じる人もいるかもしれません。バストウエストの仕上がりサイズを具体的に㎝で書いておかないといけません。

2の場合も、布の肌触りの感じ方は個人差がありますから、チクチクすると感じる人もいるでしょうし、しっかりした生地というよりゴワゴワだと思う人もいるかもしれません。「アクリル50%・綿40%・レーヨン10%、裏起毛」「5号帆布」など、生地について具体的なデータを提供しておくのがよいでしょう。

「たっぷり飲めるマグカップです」と書かれていた際に、「たっぷり飲めなかった」という人はいても、「350CC 入るマグカップです」に「350CC  入らない」というクレームは付けようがありません。もしそういう指摘があれば、不良品です。

これは、「たっぷり」という言葉を使ってはいけないということではありません。イメージを伝えることは大切です。しかし個人差のあるイメージだけではなく、「350CC 」という誰にとっても共通の具体的な説明を添えた方が誤解されないということなのです。

このトレーニングは次のような授業形式で行うことができます。

  1. インターネットオークションでわかりにくい商品説明の文章を集めましょう。
  2. その文章で客がどのような誤解をしてしまうか考えましょう。
  3. 誤解されないように文章を書き直しましょう。

 

しかし商品によってはわざと具体的に説明するのを避けているような説明文もあります。化粧品やサプリメントには次のような表現が多く見られます。

  1. お肌がぷるぷる
  2. みずみずしい素肌に
  3. 効果を実感

「ぷるぷる」とはどういう状態なのかひとりひとり感じ方は違いますし、「ぷるぷるになります」と言い切らないところが無責任だと思います。こういった言い切っていない商品はできるだけ買わないようにしているのですが、そうもいかないところが悔しいです。

 

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ところで商品の説明で最も難しいのは色の説明ではないかと思います。先日、通販でロイヤルブルーのワンピースを買いました。お店で試着した商品だったので安心して購入したのですが、仕事から帰宅して夜間に配送された商品を寝室で試着した私は、鏡に映った自分の姿を見て驚きました。ショップで試着した時とは別物なのです。

原因の1つは照明でした。寝室はくつろげるように白熱灯に近い色の電球にしているのですが、これがショップのライトの色調とは違っていたのです。

2つめは色の名前のイメージです。実物を試着したことがあったとはいえ、商品の「ロイヤルブルー」という色名と、私がイメージする「ロイヤルブルー」は微妙に違う色でした。

翌朝、自然光で見たワンピースはイメージに近い色だったので返品はしませんでしたが、改めて色を説明することの難しさを痛感しました。

 

色の説明については、私は

Amazon.co.jp: 新版 色の手帖―色見本と文献例でつづる色名ガイド: 永田 泰弘, 小学館辞典編集部: 本

を愛用しています。この事典の特徴は文学作品の用例があることで、色の説明に詩的なニュアンスを加えたいときに便利です。人気のあるロングセラーなので持っている人も多いのではないでしょうか。京都のだいやすという着物の店は、ネットショップの色の説明に「小学館発行『色の手帖』参照」と記しています。

 

また、色の正確さを追求するならプロが使うカラーチャートを取り入れてやりとりすると誤解が劇的に減ります。

Amazon.co.jp | DIC ポケット型カラーチャート | ホビー 通販

 

カラーチャートや色に関するカタログを利用するときには、肝心の色が変色していないことを確かめてください。部屋に置いているだけでも蛍光灯の紫外線で変色しますので、微妙な色をやりとりする職場では数年おきに買い替えているところもあるそうです。

 

色の説明がいかに難しいかは次のようなワークショップで実感してもらえます。

口紅を複数用意する(カタログでも可)。

口紅の色の名前のカードを作り、表示を見ないでその色の口紅を探しましょう。

 

口紅を複数用意する。

表示を見ないでその色の名前を考えましょう。

これはメイクをする女性には楽しいワークになると思いますよ。