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文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

後期第2・3回 意見文を書く

後期授業の開始後、台風でなんと連続2回も休講になってしまいました。課題を出してから半月も間隔が空いたというわけです。授業回数は補講で確保しますが、授業の流れの上では なんとも間の抜けたことになりました。

さて、後期でも前期同様に意見文を書きます。前期ではこちらで資料を用意してそれを引用するという形で書きましたが、後期では自分で資料を集めるというのが大きな違いです。2、3回で1テーマ、半期で2回こういう形で意見文のトレーニングをします。テーマによってあっけなく進むこともあれば、じっくり時間をかけることになる場合もありますので、回数にはゆとりを持たせて計画します。

今回は臓器売買をテーマに取り上げました。金銭を得るために自分の臓器を売買することが是か非かという意見文です(日本では法律で臓器売買は禁止されていますので、法律を改正するのが是か非かという形になります)。

2回目(意見文の授業1回目)の授業ではまずざっくりと意見文を書いて提出してもらいます。前期同様、これは意見文を書くトレーニングなので、自分の実際の意見と一致しなくてもかまいません。書きやすい方で書けばいいのですし、余裕があれば賛成・反対両方書くのもよいでしょう。

資料として田上孝一さんの『本当にわかる倫理学』から「臓器を売買すれば貧しい人は助かるのか?」121頁~123頁を紹介しました。*1

提出された意見文を添削するときは、反対意見を持つ人が突っ込むと予想されるところをチェックするという形にします。3回目の授業でこれを返却し、自分の意見文のどこが弱いか確認してもらいます。次のような点が問題になることが多いです。

その1:意見ははっきり書く

  • 賛成か、反対かをはっきり書く。
  • すぐには答えが出ない問題の場合、現時点で最善と思われる意見を提示する。
  • 自分の意見に対する反論について述べるときは、自分の意見に対する反論の引用が自分の意見より強い印象を与えないように、分量を考えて構成する。


意見をはっきり書いていないものとして、今回のテーマの場合、

  • 人間としてどうかと思う。
  • 違和感がある。

などという表現がありました。「賛成」「反対」「よくない」「許されると考える」など、はっきりとした表現に直します。

最近の傾向として真面目な学生さんが多いので、賛成か反対かの判断などとても下せない……と言われることがよくあります。しかし人生は有限なのでいつまでも考え続けるわけにもいきません(進学や編入の試験で書かねばならないこともあるわけです)。あくまで現時点で、今手元にある資料で考えられる範囲で書いてもらいます。

また真面目で誠実なあまり、自分の意見に対する反論を丁寧に長々と紹介するものもよくあります。鮮やかに反論すれば柔道の試合の「一本」のように読者に自分の意見の正しさを印象づけることが出来ますが、判定勝ちくらいで終わってしまいがちです。ずるいのはよくないですが、自分の意見を第一にアピールする器用さは必要だと思います。

その2:感想文にならないようにする

  • 自分の意見の原動力になる体験は大切だが、それだけでは論理的な意見文になりにくい。
  • 自分に関係することは主観的になりがち。読者を説得するときは客観的に。
  • 自分の場合だけではなく、一般化して述べる。
  • 当事者は相手を黙らせることはできるが、相手が説得されて黙ったとは限らない。


今回のテーマの場合、

  • 親の気持ちを考えるとできないことだ。
  • 透析をしている者の身にもなってほしい。

などというのは感情を表現しているのであって、意見文とはいえません。

世の中には感情の世界だけで生きていて、感情面で説得される人もいます。しかし私たちがきちんとした意見文を提出する先にいる人は、おそらく感情でなく論理で考える人です(大学のレポートもそうですね)。そういう人は共感したからといってあなたの意見に賛成するとは限りません。臓器売買は許されるべきだという意見を述べるとき、透析の大変さという体験を訴えれば、反対意見を持つ人も黙り込んでしまうでしょう。しかし沈黙は同意を示すものではありません。

意見文を書く際は、まずこのような感想文の状態を脱することが必要です。そのためには論理的に相手を説得する必要があります。

その3:納得できる根拠を示す

  • 根拠が論の流れにうまくあてはまっているか。
  • 根拠が具体的な事実か。
  • 根拠が引用である場合、引用元が信用できるか。

今回のテーマの場合、根拠としてどのような参考資料があればいいか考え、実際にインターネットや図書館を利用して集めたものを次回に持参してもらいます。この資料収集が後期の授業の意見文を書くトレーニングで最も重要なポイントです。

それについては次回に続きます。

*1:授業を担当している大学では倫理学の授業はないのですが、興味を持った学生さんが大学図書館にこの本の購入のリクエストをしていました。