文章表現の授業にはもれなく提出物のチェックが付いてきます。私は現在最大で週300枚弱チェックしています。昨年度は350枚程でした。1枚平均2分くらいかかりますので、90分授業で50人の提出物を見るとなると、授業と同じ時間がかかります。正直言ってこれはかなりの負担です。
提出物は手書きのことがほとんどなので、添削も手書きになります。実験や実習の記録、レポートの書き方などを学ぶのは早いに越したことはありません。そのため、こういった授業の多くは大学に入学してまもなく、少なくとも1回生の前期に設けられており*1、すべての学生がパソコンで提出物を作成するのは難しいからです。また、実習の記録や実験などで意外と手書きの習慣が残っているのも、提出物が手書きの理由の1つです。
しかしたとえば企業などの研修でこのタイプの授業を行う場合、受講生がパソコンで提出物を作成できるのなら、ソフトの添削機能などを利用することができるでしょう。
また、大学によっては添削のスタッフが別にいるところもあるようです。
学生の到達度を知り、次の授業に繋げるためには、講師自身が添削する必要があるとは思いますが、添削の一部について助けを借りることができれば、教材研究などに力を注ぐことができます。また、添削のスタッフを講師に育てることもできるかもしれません。
いずれにせよ、新しく文章表現の授業を担当する講師の方は、添削の負担について心づもりをしておいた方がよいと思います。
実際に提出物を見ていると、気になる表現はパターンが決まっていて、同じものが何度も出てきます。時間に余裕があれば授業の中で取り上げて直してみるのもいいでしょう。以下によくある例を挙げます。「→」右側は訂正例です。
- あと→(削る)・また・さらに
- いっぱい→数多く
- いろんな→いろいろな
- 起きれる→起きられる
いわゆるら抜き言葉です。
- 男、女→男性、女性・男の人、女の人
「男」「女」だと事件の犯人や歌詞のイメージになってしまいます。
- お年寄りの人→お年寄り・年を取った人
- 外国人の人→外国人・外国の人
気を遣うあまり変な表現になっている例です。
- ~からすると→~にとって
- キレイ→きれい・美しい
女子に多く、男子には見られない表記。女性向きの雑誌などの影響かもしれません。
- しんどい→辛い・苦しい
これは故意に残している方言かもしれません。関西人ならわかっていただけると思いますが、「しんどい」にぴったりくる共通語はなかなか見つからないのですよね。
- すごく→非常に
- ~だけれど→~だが
- 食べれる→食べられる
ら抜き言葉の文法的説明がピンとこないなら、日常生活でよく使う「起きる」「食べる」は「起きられる」「食べられる」と「ら」がいるのだと覚えてしまいましょう。
- ~ってゆう→~という
- ~的には→~にとって
- ~と思います。
文体を統一していないものもよくあります。ずっと常体(だ・である調)で書いているのに、最後に「~と思います。」という一文で締めくくってしまうのです。小学校などでそのような作文の型があったのかもしれません。
- ~とか→(削る)・等・や
- 直す→片付ける
片付けることを「直す」というのは関西方言。気がつかず方言を書いていることがあります。
- ~なんだ→~なのだ
- ~なんて→など
- ~なんてこと→などということ
- ~のことについて→について
- むかつく→腹が立つ
- めんどくさい→面倒だ
- やっぱり→やはり
- ~よりかは→よりは
- 〜らへん→〜あたり
硬い文章にするのか、少しくだけた親しみやすい文章にするのかはケースバイケースです。最近は新書などもかなりくだけた文体で書かれているものが増えてきました。
硬い文章にしたい場合、がんばって書き始めても書いているうちに言葉が思いつかなくなってくることがあります。読書をして語彙を増やそうなどと言っておれない切羽詰まった学生さんには類語辞典を紹介します。
- 不正確な固有名詞
「ミスタードーナツ」なのか、「ミスタードーナッツ」なのか? 固有名詞は必ず検索などで確かめ、正確に書きましょう。
また、人名などの異体字には注意が必要です。たとえば牛丼で有名な吉野屋の「吉」の上部は「士」ではなく「土」で下の方が長くなっています。
- 商品名
「宅急便」はクロネコヤマトが商標登録した語なので、一般的には「宅配便」と書く必要があります。
「マジックインキ」や「ホッチキス」など、一般名詞だと思っていたものが商品名だったということはよくありますが、ものによっては普通名詞化しているかもしれません。
- 略語
「マクド」ではなく「マクドナルド」、「ケンタ」ではなく「ケンタッキーフライドチキン」。略さないで正確に書きましょう。
これについても、例えば正式な場面では「携帯電話」と書くべきですが、場合によっては「携帯」や「ケータイ」がしっくりくるかもしれません。どんな文章が求められるか、ケースバイケースで判断しましょう。
- 若者にしか通じない言葉
方言と同じく気付きにくいものですが、どの世代が読んでもわかるように書きましょう。
*1:春休みのリメディアル科目として設けるのもよいと思います