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文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

第1回 正確に伝える

第1回目の授業です。

文章表現の授業は1年生の春に行われることが多いです。学校生活が始まると、授業によってはすぐにレポートなどを書くことになりますので、文章表現の授業はこの時期に行うのが最も適当だと思います。

大学や専門学校に入学したばかりの学生は、まだお互いをよく知りません。1回目の授業では4~6人のグループを作り、それぞれ自己紹介などをします。今後の授業でもグループでブレーンストーミングなどをすることになりますので、できるだけ和やかな雰囲気になるよう心がけます。話し合ったり書き物をしたりしやすいように、机なども移動します。

 

さて、第1回目の授業では、各グループに1枚、絵はがきを配ります。

絵はがきは写真より絵画やイラストが好ましいです。あまり詳しく描き込まれたものでなく、5つくらいの要素があるものを選んで下さい。

たとえば次のようなものです。

  • 小さい犬(チワワ)がいる。
  • 女性がリードを持ってその犬を連れている。
  • 男性がその犬の頭をなでている。
  • 少し離れたところに中ぐらいの犬(柴犬)がいてチワワを見ている。
  • 中ぐらいの犬の側には子供が立っている。

 このような、実生活で出会いそうな場面が描かれたものの他、慣れてきた学生さんには元永定正やマグリッドのような抽象的な絵画もおもしろいです。絵心のある方は御自身でちょうどよいものを描くのもよいでしょう。

この絵はがきを使ってちょっとしたゲームをします。ゲームの進め方は次の通りです。

  1.  配布された絵はがきの内容を説明する文章を書きましょう。何を書くべきかグループで相談し、1枚にまとめましょう。(字数を指定する場合は200字程度)
  2. その文章を別のグループと交換しましょう。絵はがきは見せないで。交換した文章を元に、絵はがきの絵を再現しましょう。
  3. 再現できたら、元の絵はがきを見せてもらいましょう。間違った部分はなぜ間違ったのか、どのように説明してもらえば間違わなかったのかを伝えましょう。

 このゲームの1回目で完璧に絵が再現できたことはありません。たとえば、先の例では次のような間違いが起きます。

  •  男性と女性の立つ位置が入れ替わっている。
  • 女性がリードを持つ手が逆。
  • 男性は犬の頭をなでていない。
  • 柴犬がチワワに襲いかかっている。
  • 子供がいない。

 このゲームをしてみると、自分が見ている物を伝えているつもりが、いかに伝わっていないかが実感できます。

このような情報を正確に伝えるには、次のポイントを押さえることが大切です。

大きさ

位置・向き

数については、人が3人(男性・女性が各1人、子供が1人)、犬が2匹。

大きさについては、犬の大小を説明する必要があります。男性・女性の背の高さなどに特徴があれば、それも説明します。

位置・向きについては、男性と女性が向かってどちら側に立っているのか、女性はリードをどちらの手に持っているのか、柴犬は画面のどちらにいるのか、さらに子供はどちらにいるのかを説明します。画面の端から説明するより、中心から説明していく方が簡単です。話題になるものは画面の中心にあることが多いからです。

左右の向きを説明するときは、反転しないようくれぐれも注意が必要です。仕事の場面、特に医療関係などで左右を取り違えると大変なことになります。「女性の右手」と「女性の向かって右の手」は違います。

ところで犬の説明をするときに「チワワ」「柴犬」という表現を用いるのはまず問題ないと思いますが、犬に限らずその分野に詳しくない人が読むかもしれない文章には専門的な言葉は避けましょう。

猫の説明で年配の学生が「キジネコ」と書いたのが通じなかったり、猫好きの学生が「アメショー」と書いたのが通じなかったりしたことがあります。自分たちの世代にしかわからない言葉や略語や方言には注意が必要です。

 

別の回で詳しく取り上げますが、情報を正確に伝えるには、自分の感想ではなく「事実」を書く必要があります。自分にとって「かわいい犬」でも他の人のイメージする犬は違うかもしれません。「チワワ」か、「女性の膝の辺りまでしかない大きさで、眼が大きく尖った耳で、巻いた尻尾が頭と同じくらいの大きさの犬」と表現しなければ、誤解される可能性があります。

 

ここまでで所要時間60分程度になりますので、授業のガイダンスなどを含めて第1回は終了です。

20人前後の少人数のクラスの場合、学生の反応がよくわかって早めに進行しますので、説明を終えた後もう1回ゲームをすることができます。その場合はポイントを押さえると最初とは比べものにならないほど正確に伝わることが実感できます。できれば2回したいところなのですが。

この授業は学生を1列ごとに大きく2グループに分け、2種類の絵はがきを用いても行えますが、グループで相談しながら行う方が効果があります。情報を正確に伝えるには押さえるべきポイントがあることを実感してもらって、第1回目の授業は終わりです。