文章表現の授業です

専門学校や大学で担当している「国語表現法」「日本語表現」などといった授業の覚え書き

わかりにくい文章のサンプルを集める その2

わかりにくい文章のせいでトラブルになっているサンプルの宝庫がネットショッピングです。ヤフオクなどで個人が出品している商品の説明だけでなく、チェックをしているであろうショップの説明文にもわかりにくいものが溢れています。

中には、大きさや重さを正確に表示していても、

  • 思ったより小さくて物が入りませんでした。   [ポーチ]
  • 重いです。荷物を入れると持てたもんではありません。 [バッグ]

などと低い評価を付けられている気の毒なものもあります。こういった“いちゃもん”をつけているとしか言えない客に当たってしまうのは事故のようなものかもしれません。しかし、ちょっとしたことでトラブルを防げる場合もまた多いのです。

そのちょっとしたこととは、第2回で学んだ事実を表す文の形で書くことです。

たとえば、

  • すぐに発送します。

ではなく

  • 本日付で発送します。

と具体的に書くのでしたね(第2回 事実を記述する - 文章表現の授業です)。「すぐに」という言葉ではどの程度急いでいるのか人によってイメージは違いますので、誤解されないような表現を使います。衣類によくある、

  1. ゆったりしたジャケットです。/タイトなシルエットです。
  2. 柔らかい肌触りです。/しっかりした生地でできています。

といった表現も、それだけではなく具体的な説明が必須です。

1の場合、体型は人それぞれなので、ゆったりしていない/タイトではないと感じる人もいるかもしれません。バストウエストの仕上がりサイズを具体的に㎝で書いておかないといけません。

2の場合も、布の肌触りの感じ方は個人差がありますから、チクチクすると感じる人もいるでしょうし、しっかりした生地というよりゴワゴワだと思う人もいるかもしれません。「アクリル50%・綿40%・レーヨン10%、裏起毛」「5号帆布」など、生地について具体的なデータを提供しておくのがよいでしょう。

「たっぷり飲めるマグカップです」と書かれていた際に、「たっぷり飲めなかった」という人はいても、「350CC 入るマグカップです」に「350CC  入らない」というクレームは付けようがありません。もしそういう指摘があれば、不良品です。

これは、「たっぷり」という言葉を使ってはいけないということではありません。イメージを伝えることは大切です。しかし個人差のあるイメージだけではなく、「350CC 」という誰にとっても共通の具体的な説明を添えた方が誤解されないということなのです。

このトレーニングは次のような授業形式で行うことができます。

  1. インターネットオークションでわかりにくい商品説明の文章を集めましょう。
  2. その文章で客がどのような誤解をしてしまうか考えましょう。
  3. 誤解されないように文章を書き直しましょう。

 

しかし商品によってはわざと具体的に説明するのを避けているような説明文もあります。化粧品やサプリメントには次のような表現が多く見られます。

  1. お肌がぷるぷる
  2. みずみずしい素肌に
  3. 効果を実感

「ぷるぷる」とはどういう状態なのかひとりひとり感じ方は違いますし、「ぷるぷるになります」と言い切らないところが無責任だと思います。こういった言い切っていない商品はできるだけ買わないようにしているのですが、そうもいかないところが悔しいです。

 

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ところで商品の説明で最も難しいのは色の説明ではないかと思います。先日、通販でロイヤルブルーのワンピースを買いました。お店で試着した商品だったので安心して購入したのですが、仕事から帰宅して夜間に配送された商品を寝室で試着した私は、鏡に映った自分の姿を見て驚きました。ショップで試着した時とは別物なのです。

原因の1つは照明でした。寝室はくつろげるように白熱灯に近い色の電球にしているのですが、これがショップのライトの色調とは違っていたのです。

2つめは色の名前のイメージです。実物を試着したことがあったとはいえ、商品の「ロイヤルブルー」という色名と、私がイメージする「ロイヤルブルー」は微妙に違う色でした。

翌朝、自然光で見たワンピースはイメージに近い色だったので返品はしませんでしたが、改めて色を説明することの難しさを痛感しました。

 

色の説明については、私は

Amazon.co.jp: 新版 色の手帖―色見本と文献例でつづる色名ガイド: 永田 泰弘, 小学館辞典編集部: 本

を愛用しています。この事典の特徴は文学作品の用例があることで、色の説明に詩的なニュアンスを加えたいときに便利です。人気のあるロングセラーなので持っている人も多いのではないでしょうか。京都のだいやすという着物の店は、ネットショップの色の説明に「小学館発行『色の手帖』参照」と記しています。

 

また、色の正確さを追求するならプロが使うカラーチャートを取り入れてやりとりすると誤解が劇的に減ります。

Amazon.co.jp | DIC ポケット型カラーチャート | ホビー 通販

 

カラーチャートや色に関するカタログを利用するときには、肝心の色が変色していないことを確かめてください。部屋に置いているだけでも蛍光灯の紫外線で変色しますので、微妙な色をやりとりする職場では数年おきに買い替えているところもあるそうです。

 

色の説明がいかに難しいかは次のようなワークショップで実感してもらえます。

口紅を複数用意する(カタログでも可)。

口紅の色の名前のカードを作り、表示を見ないでその色の口紅を探しましょう。

 

口紅を複数用意する。

表示を見ないでその色の名前を考えましょう。

これはメイクをする女性には楽しいワークになると思いますよ。 

わかりにくい文章のサンプルを集める

文章表現の授業の教材を作るには、わかりにくい文章のサンプルが必要です。

選挙を控えたこの時期はまたとないチャンスです。論理的な文章を書くための基本的な技術である「事実を記述する」ということができていない文章が、立候補者のチラシなど*1に豊富に掲載されています。できるだけたくさん集めたいものです。

「事実を記述する」とはどういうことかはこちら↓を御覧下さい。


選挙の立候補者のチラシを用いて次のような授業ができます。

  1. 候補者役と有権者役という役割を決める。
  2. 有権者役の学生さんは事実を表す文章になっていない部分を見つけてマーカーなどでチェックし、候補者役にその部分について質問する。
  3. 候補者役の学生さんは質問に対して具体的に、事実を表す文章の形で答える。

たとえば、

  • 女性が働きやすい環境を整備します!

なら、具体的に何をしてくれるのかよくわかりません。女性が働きやすい環境というのがどのような環境なのかは人それぞれなので、事実を表す文になっていないのです。

  • 保育士の数を25パーセント増やし、待機児童を4年以内に0にします。

なら事実を表す文だと言えるでしょう。数字などを用いて具体的に書くと、内容が誤解されずに伝わります。

これ以外にも、

  • お年寄りに優しい町づくりをします。
  • 財政問題を先送りしません。
  • 被災地の復興最優先で政治運営にあたります。
  • グローバルな人材を送り出せる教育をします。
  • 若者が将来に夢を持てる日本を作ります。
  • 消費税の増税分は全額国民に還元します。
  • 原発依存度は可能な限り低減させます。
  • 地方自治体の自立を促します。
  • 政治にビジネス感覚を取り入れます。
  • 雇用問題を抜本改革します。

というように、大量にサンプルを集めることができます。「財政問題を先送りしません」の場合、「財政問題」は具体的に何か、「先送りしません」というのはいつ何をするのかを伝えていません。こういうサンプルを集めていると、政治家はもしかするとわざと事実を表す文にしていないのかもしれないと思えてきます。 

*1:そのまま使用すると特定の候補者を批判したり支持したりしているとの誤解を招きかねませんので、加工して架空の候補者のチラシを作成するのがいいかもしれません。

後期第4回 まともな情報の集め方

少し分量のある意見文を書くときは、自分の文章だけでなく資料を引用することが多くなります。引用する資料が意見を補強するものとして効果的に使われていればいいのですが、学生さんの提出物では残念なケースもよく見られます。

そこで適切な資料を見つけてくる練習を後期の意見文*1の課題にしています。粗々書いた意見文を添削の上いったん返却して、どのような資料が必要か自分で考えて見つけてもらうのですが、この授業の進め方がなかなか難しいので悩んでいます。

  1. 適切な資料を見つけることができた。
  2. 資料を探したが見つからなかった。
  3. 探すべき資料が何なのかわからない。

2の状況の学生さんの具体的な質問を汲み上げて対応したいのですが、遠慮がちな学生さんが多いクラスでは結果的に締め切り間際に質問が集中し満足いく対応ができないでいます。“ノリ”のいい学生さんの多いクラスはうまくいくのですが……

また、添削しているにも関わらず、3の学生さんも多く見られます。

 

数回を費やして資料を自分で見つけてもらうのは、まともな資料(情報)を集める技術が文章の引用だけでなく人生のあらゆる場面で必要なものだからです。就職に際して希望する職種について調べるとか、留学先の外国のことを調べるとか。

意見文の課題の1つを理系寄りの話題にしているのは、文系の学生さんが相手なので、理系の資料を探す能力を身に付けてほしいと思っているからです。たとえば何かの病気に罹ってしまったら、インターネットや書店・図書館の医学コーナーでその病気を調べることでしょう。インターネットの情報は玉石混淆ですし、書店や図書館の医学のコーナーには、たいてい西洋医学の本だけでなく、東洋医学や伝統医学、民間療法の本などが一緒に置かれています。トンデモ科学に引っかかることなく、確実に信頼できるものを探し出せる嗅覚を身に付けてほしいのです。大学を出てから一生病気にならない人はまずいないし、命にも関わるかもしれない問題ですからね。

というわけで、まともな理系の情報の集め方を説明するのに非常にいい教材が

usausa1975さんの 「ダメな科学」を見分けるための大まかな指針」のポスター - うさうさメモ です。usausa1975さん、ありがとうございます。

ポスターの項目のうち、5の推測表現については「事実を表す文」の練習で身に付いています(はずです)が、相関関係やら対照実験やら盲検試験やらは文系の学生さんには説明が必要でした(高校までで学んでいるはずなのですが……)。

*1:前期の授業で意見文を課題にしたときは引用する資料をこちらで用意しました。

レポートはどのくらい負担になるか

大学で初めてレポートを書いてみた1回生はどんな感想を持ったのだろう?――後期の第1回目の授業で、ごく簡単なアンケートをしました。レポートがどのくらい負担になっているのか、苦労しているのはどんな点かを知りたかったのです。アンケートの結果と学生さんと雑談した内容をまとめておきます。

 

1.前期にレポートを何本書きましたか

 2本…1名、2~3本…2名、3本…4名、4~5本…2名、5本…4名、7本…2名

既に忘却の彼方という学生さんも多く、回答があった分もはっきりした数字ではないですが、4~5本が多かったようです。

 

2.レポートの字数を教えて下さい。

これは科目によって違ってくるのは当然ですし、字数を指定しているものと自由に書いたものを区別しませんでしたので、そもそもデータをとる意味がないようなものですが、他の科目でどのくらいの長さのレポートを書いているのか気になっていたのでした。

 500字…1名、600字…3名、700字…1名、800字…2名、

 1000字…1名、1200字…6名、1300字…1名、1500字…3名、

 2000字…5名、1200~2000字…1名、2000~2500字…1名、

 4000字…2名、6000字…1名

1200字や2000字、つまり原稿用紙3枚か5枚という指定が多かったようです。字数が自由の場合、10枚以上書く学生さんもいることがわかりました。

私自身の担当科目もそのようにしたのですが、A4用紙1枚(5名)、A4用紙3枚(2名)という、字数を指定していないものもありました。 

 

3.レポートの課題はどの程度負担になりましたか?

「負担ではなかった」という学生さんはおらず、「ある程度負担になった」「非常に負担だった」が共に7名(未記入1名)でした。

 

4.どのような点が負担になりましたか?

「面倒」「しんどい」という正直な?回答は、「字数が多い」「長い文章を書くのがしんどい」ということのようです。 コピペを防ぐためか、手書き指定や教室で試験形式で書くレポートがあり、パソコンに慣れた学生さんは書くことそのものが疲れるということでした。

「時間的に負担」「授業終了間際にまとめて課題が来る」「本数」といったスケジュールがキツイという声や、「授業内に記入しなくてはならない場合、時間が足りなかった」というのもありました。

どれくらい負担になるかは「課題に対する基礎知識・興味・情報がない場合、書き始めと結論が思いつかない」と科目によって違い、苦手な科目は「参考文献の内容が難しすぎるときがある」ので負担度は増すようです。

レポートの「書き方がわからない」というのは前期にそのための授業を担当した身としては非力さを思い知らされる感想です……。「何を書いたらよいか迷う」「自分の考えをどうアプローチしていくかに悩んだ」というのもありました。

「テーマに沿った内容を考えるのが大変」というのは「テーマが広すぎてなにをかけばいいのかわからなくなる」のかもしれません。後期はより実践的に字数に見合ったテーマの絞り方を取り上げようと思います。

 「字数が足りない」というのもありました。800字のレポートを提出した学生さんです。

 

5.レポートの書き方でよくわからない点があれば書いてください。

「始めと終わりの書き方」、特に「出だしに何を書けばいいのかわからなかった」。パソコンを使えば思いついた順に書くことが出来るのですが、教室試験の形での手書きレポートは困ったようです。

「引用の仕方」「具体的事例の持ち出し方」は、前期はちょうどSTAP細胞がらみのニュースが飛び交っていた時期だったこともあるでしょう。

表記面では「文字数の数え方」が気になるようです。「タイトルや副題も含むのか」「注や参考文献の字数は数えなくていいのか」といった即解決できる疑問の他に、パソコンを使って純粋に文字数だけをカウントしたものと400字詰め原稿用紙を単位として数える文字数の違いに戸惑う学生さんが多いのが目立ちます。原稿用紙の世代の担当教員が400字詰め原稿用紙5枚のつもりで2000字を指定しても、学生さんは文字数だけを数えているかもしれませんので、字数指定には注意が必要だと思いました。

「読点をどこで打つのか。文脈か息づかいか」「カッコの使い方」「どこで改行するか」というのもありました。

 

6.レポートの書き方で練習したい点があれば書いてください。

5.で「自分の意見の書き方」と書いた学生さんが「自分の意見と対立する意見にもそれぞれメリット・デメリットがある。意見を決めかねることが多い」ため「意見を決定する仕方」を練習したい点として書いていました。

「レポートの構成」「文章の流れ」は「トピックセンテンス」とも関連するようです。5.で「改行」と書いた学生さんが6.にも「改行」を書いていましたが、これも文章構成やトピックセンテンスと関わってくることのようです。

 

後期はレポートの課題として出される大きなテーマを細分化し、問題を絞って書く技術を取り上げようと思いました。どうも大きなテーマのまま格闘してよくわからないまま終わってしまったというケースが多いように見受けられました。

また、提出物をチェックするときに個別に朱を入れているのですが、表記上の具体的な約束事も取り上げる方がいいかもしれないと思いました。

後期第2・3回 意見文を書く

後期授業の開始後、台風でなんと連続2回も休講になってしまいました。課題を出してから半月も間隔が空いたというわけです。授業回数は補講で確保しますが、授業の流れの上では なんとも間の抜けたことになりました。

さて、後期でも前期同様に意見文を書きます。前期ではこちらで資料を用意してそれを引用するという形で書きましたが、後期では自分で資料を集めるというのが大きな違いです。2、3回で1テーマ、半期で2回こういう形で意見文のトレーニングをします。テーマによってあっけなく進むこともあれば、じっくり時間をかけることになる場合もありますので、回数にはゆとりを持たせて計画します。

今回は臓器売買をテーマに取り上げました。金銭を得るために自分の臓器を売買することが是か非かという意見文です(日本では法律で臓器売買は禁止されていますので、法律を改正するのが是か非かという形になります)。

2回目(意見文の授業1回目)の授業ではまずざっくりと意見文を書いて提出してもらいます。前期同様、これは意見文を書くトレーニングなので、自分の実際の意見と一致しなくてもかまいません。書きやすい方で書けばいいのですし、余裕があれば賛成・反対両方書くのもよいでしょう。

資料として田上孝一さんの『本当にわかる倫理学』から「臓器を売買すれば貧しい人は助かるのか?」121頁~123頁を紹介しました。*1

提出された意見文を添削するときは、反対意見を持つ人が突っ込むと予想されるところをチェックするという形にします。3回目の授業でこれを返却し、自分の意見文のどこが弱いか確認してもらいます。次のような点が問題になることが多いです。

その1:意見ははっきり書く

  • 賛成か、反対かをはっきり書く。
  • すぐには答えが出ない問題の場合、現時点で最善と思われる意見を提示する。
  • 自分の意見に対する反論について述べるときは、自分の意見に対する反論の引用が自分の意見より強い印象を与えないように、分量を考えて構成する。


意見をはっきり書いていないものとして、今回のテーマの場合、

  • 人間としてどうかと思う。
  • 違和感がある。

などという表現がありました。「賛成」「反対」「よくない」「許されると考える」など、はっきりとした表現に直します。

最近の傾向として真面目な学生さんが多いので、賛成か反対かの判断などとても下せない……と言われることがよくあります。しかし人生は有限なのでいつまでも考え続けるわけにもいきません(進学や編入の試験で書かねばならないこともあるわけです)。あくまで現時点で、今手元にある資料で考えられる範囲で書いてもらいます。

また真面目で誠実なあまり、自分の意見に対する反論を丁寧に長々と紹介するものもよくあります。鮮やかに反論すれば柔道の試合の「一本」のように読者に自分の意見の正しさを印象づけることが出来ますが、判定勝ちくらいで終わってしまいがちです。ずるいのはよくないですが、自分の意見を第一にアピールする器用さは必要だと思います。

その2:感想文にならないようにする

  • 自分の意見の原動力になる体験は大切だが、それだけでは論理的な意見文になりにくい。
  • 自分に関係することは主観的になりがち。読者を説得するときは客観的に。
  • 自分の場合だけではなく、一般化して述べる。
  • 当事者は相手を黙らせることはできるが、相手が説得されて黙ったとは限らない。


今回のテーマの場合、

  • 親の気持ちを考えるとできないことだ。
  • 透析をしている者の身にもなってほしい。

などというのは感情を表現しているのであって、意見文とはいえません。

世の中には感情の世界だけで生きていて、感情面で説得される人もいます。しかし私たちがきちんとした意見文を提出する先にいる人は、おそらく感情でなく論理で考える人です(大学のレポートもそうですね)。そういう人は共感したからといってあなたの意見に賛成するとは限りません。臓器売買は許されるべきだという意見を述べるとき、透析の大変さという体験を訴えれば、反対意見を持つ人も黙り込んでしまうでしょう。しかし沈黙は同意を示すものではありません。

意見文を書く際は、まずこのような感想文の状態を脱することが必要です。そのためには論理的に相手を説得する必要があります。

その3:納得できる根拠を示す

  • 根拠が論の流れにうまくあてはまっているか。
  • 根拠が具体的な事実か。
  • 根拠が引用である場合、引用元が信用できるか。

今回のテーマの場合、根拠としてどのような参考資料があればいいか考え、実際にインターネットや図書館を利用して集めたものを次回に持参してもらいます。この資料収集が後期の授業の意見文を書くトレーニングで最も重要なポイントです。

それについては次回に続きます。

*1:授業を担当している大学では倫理学の授業はないのですが、興味を持った学生さんが大学図書館にこの本の購入のリクエストをしていました。

後期第1回目 正確に伝える

後期の授業も始まりました。

夏休みを終えて、前期に学んだことをすっかり忘れてしまったという学生さんも少なくありません。第1回目の授業は夏休み前のことを思い出すことから始めます。実際に大学で初めてレポートを書いてみて、どういう点が大変だったか、文章表現の授業で学んだことを生かせたか、簡単なアンケートを取りながら、具体的にアドバイス出来るところはアドバイスをします。

期末の試験期間に文章表現の技術が必要だと実感したことを思い出してもらうことは、後期の授業のモチベーションアップに繋がります。また、他の科目のレポートの課題と学生さんの感想を知ることは、私たち文章表現の担当講師にとって、授業でどんな点に力を入れるといいかがわかるので非常に有益です。特にコマ数が少なく実践的な授業を求められる専門学校の場合は、実習ノートなどを閲覧させてもらうと有り難いものです。

さて、前期の第1回目の授業では、各グループに1枚、絵はがきを配り、ちょっとしたゲームをしました。絵葉書の内容を説明する文章を書き、別のグループと交換し、再現するのです。うまく再現出来なかった所は、説明文のどこが不十分だったのかを考え、

大きさ

位置・向き

を正確に伝える必要があることを学んでもらいました。

 

後期の第1回も同じようなゲームをします。ルールは次の通りです。

  1. 一列になり、先頭の人は配布された絵の内容を次の人に説明しましょう。
  2. 2人目からは絵を見ないで次の人に説明しましょう。
  3. 最後の人は自分が聞いた説明から絵を再現しましょう。
  4. 再現できたら、元の絵を見せてもらいましょう。間違った部分はなぜ間違ったのか、どのように説明してもらえば間違わなかったのかを伝えましょう。

古典的で単純な伝言ゲームですが、このゲームをしてみると、情報というものが人から人へと伝わる間にどれほど変形するかがわかります。今回は妖怪の絵を使いましたが、角が1本から2本になっていたり、女が男になっていたり、羽が生えてしまったり、持っている金槌が巨大化したりという例がありました。

元の絵と再現した絵を見比べて、笑って終わるのなら単なる伝言ゲームですが、文章表現の授業ですから次のことに気付いてもらいたいものです。

  1. 私たちは世界中のすべてのものを自分の目で直接見ることはできない。誰かの言葉でそれが説明されているのを利用することの方が圧倒的に多い。私たちはそれを引用して用いている。
  2. 引用は回数を重ねるほど不正確になっていく。よって、孫引きはできるだけ避けたい。
  3. 文章は必ずしも事実を伝えているとは限らない。誤解を招く表現で書かれていたり、事実でないことを書いていたりする可能性すらある。
  4. 引用された場合に誤解されないよう、できるだけ具体的に書くべきである。

レポートの引用のマナーについてはもちろんのこと、このご時世ですから、デマや風評を例にとって解説すると わかってもらいやすいのではないかと思います。

説明文を書く際の題材にはよくオバケを使います。今回のような妖怪についての情報は国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベースなどを利用できます。マイナーな妖怪がたくさん出てきますが、一度妖怪マニアの学生さんがいて授業が成立しなかったことがありました。ご注意を。

国際日本文化研究センター | 怪異・妖怪伝承データベース

高校の国語科の「書く」授業

まともなレポートを書けない大学生が多い理由として、それまでの国語教育では感想文などの情緒的な文章しか書かされなかったからだということがよく言われますが、それに対する反論も同業者の間で耳にします。実際、高等学校学習指導要領解説を見てみると、

 論理の構成や展開を工夫し,論拠に基づいて自分の考えを文章にまとめること。(第2章第1節3B「書くこと」(1)指導事項)

などという項目がちゃんとあります。

このように国語科の学習指導要領を見ていると、現代の日本の国語教育では必ずしも論理的な文章の書き方を軽んじているわけではないように思われます。

しかし実際はどうなのでしょうか。高校までにどのような文章を書いてきたのか大学生に尋ねると、私の場合圧倒的に多いのはやはり「感想文」です。読書感想文だけではなく、体育祭や文化祭、社会見学や遠足など、何かにつけて感想文を提出した(させられた)ことを、彼ら彼女らは「鬱陶しかった」という記憶と共に話してくれます。学習指導要領に書かれているような「説明や意見などを書く言語活動」も学んだのかもしれませんが、印象に残っていないようなのです。

過去に一度だけですが、国語の教師が論理的な文章を書く指導を熱心に行っていたという学生がいました。学校や教師によって状況は全く異なるのでしょう。私の接する範囲では、高校時代に意見文や説明文の型が身に付くまで繰り返し練習してきた大学生はやはり非常に少ないのです。

 

学習指導要領には

 説明や意見などを書く言語活動

イ 出典を明示して文章や図表などを引用し,説明や意見などを書くこと。(第2章第1節3B「書くこと」(2) 言語活動例)

と引用についての項目もあります。この引用については、学習指導要領に従っていれば小学校3年生から継続して学んでいるはずです。大学生がなぜコピペレポートを書くのか実に不思議です。

「調べ学習」と称して小学校の頃から本や新聞、場合によってはインターネットの記事を用いることがありますが、多くの学生たちはその場合も引用のルールを学んだ記憶がないと言います。何かを探してきただけで偉いと褒められ、丸写しをしていても咎められなかったそうです。出典を示さない引用を注意するとキョトンとする学生がいるのは、このような教育を受けてきたからではないでしょうか。いい加減な「書く」授業ならしない方がマシです。

 

大学生のレポートを書く技術に関しては、大学ばかりがその責任を問われ、初年時教育も行われています。しかし大学入学まで、特に高校での「書く」授業の実態がどのようになっているのかも、明らかにする必要があると思います*1

*1:もうデータがあるかも。たとえば

http://www.edu-c.pref.nagasaki.jp/cyouken/h22.web/a5/h23kokuanke.pdf